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進む!地域鉄道の「観光資源化」 (2014年5月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■地域鉄道は新たな観光資源

旅行業や宿泊業、飲食業など観光に関連する業種は多岐にわたるため、日本標準産業分類では「観光」という業種分類はなく、まとめて「観光関連産業」と称されることもある。本稿ではこの産業のひとつ「鉄道業」にフォーカスしてみたい。

観光との関連性で言えば、鉄道はこれまで観光客を目的地へ安全かつ確実に運ぶ「移動手段」としての役割が中心だった。しかし、最近、観光に特化した列車(観光列車)を仕立てる動きが地域鉄道(※)を中心にみられるようになってきた。こういった列車の目的は、「人を運ぶ」というよりも、むしろ鉄道自体を観光資源と捉え(観光資源化)、観光客を列車に誘引することだ。

(※)地域鉄道とは、新幹線・在来幹線・都市鉄道に該当しない旅客輸送を行う鉄道路線で、全国に91社ある。

■観光資源化の背景

「観光資源化」の背景には以下のような実情がある。地域鉄道は、これまで通学や通勤など住民の足として地域社会の発展に大きく貢献してきた。しかしながら、昨今、少子化の進展やモータリゼーションの発達等により輸送人数は減少しており、経営環境は決して良いとはいえない。また、車両の老朽化やトンネル・橋りょうの補修など課題も多い。

国土交通省の資料によると、平成24年度の経常収支が赤字だった地域鉄道は75.8%(91社中69社)を占めている。また、平成12年度以降、JR・大手私鉄を含め35の路線(営業キロ673.7km)が廃止されているが、鉄道は公共性が強く、地域の暮らしに組み込まれた存在であることから、路線の廃止は地域住民にとっては死活問題となりかねない。

こういった状況下にあって、定期券以外の乗客の輸送に力を入れるところが増えてきており、公益財団法人日本観光振興協会の調べでは、観光の振興を重要な経営戦略(最重要戦略:34.2%、重要戦略:59.2%)と位置付けている地域鉄道は9割を超えている(グラフ参照)。

図1
■「観光資源化」の進展に向けて

観光列車等への乗車は「非日常性の体験」という観光の醍醐味である。観光列車は鉄道ごとに特色があり、地域性とも相まってオリジナル性が強い。例えば、その地特有の車窓風景や車内イベント、地元特産品を使った食事の提供、SL列車・レトロ車両・ラッピングカーの運行、アテンダントの乗車などがあり、「乗って楽しめる観光」が目白押しだ。

もちろん、JR各社や大手私鉄も新造車両の導入や大規模な改造で「観光資源化」を進めているが、地域鉄道ではそういった大掛かりな設備投資は難しい。また、運賃などは他社に比べ割高となるものや、別途、特急券や指定席券等が必要な観光列車もある。そのため、「いかに魅力的な付加価値を付けていくか」、「どういった非日常性を提供できるか」が問われるだろう。

厳しい経営環境の中、各社それぞれが工夫を凝らした「観光資源化」の動向にこれからも注目していきたい。(丸尾尚史)