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利益とキャッシュフローは一致しない(2016年11月)
上席主任研究員 橋本 公秀
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■決算書の中心である財務3表

一般的に決算書と呼ばれる財務諸表は「貸借対照表(以下、BS)」「損益計算書(以下、PL)」「キャッシュフロー計算書(以下、CF計算書)」の3つが中心で、財務3表とも呼ばれる。このうちCF計算書が導入されたのは、2000年3月からで、歴史は浅い。


■キャッシュフロー計算書はなぜ必要?

では、どうしてCF計算書が、重要視されるようになったのだろうか。それは1990年代に経済社会が大きく変動したことによる。

高度経済成長時代からバブル経済の時代は、資産を保有していれば、BSに取得原価で計上されている土地等の資産価値が上がり、含み益が発生する時代であった。そのため、勘定科目の現金・預金に固執する必要はなかった。

ところが、バブル経済が崩壊しデフレ経済の時代になると「モノ」を増やしても時の経過とともに価値が目減りするので、「お金」で資産を保有する経営(キャッシュフロー経営)が求められるようになった。経営資源の主役が「モノ」から「お金」に変わり、新たにお金の動きを表す書類が必要になり、日本では2000年3月期よりCF計算書が制度化された。


■資産には「お金」と「モノ」の資産がある

CF計算書には、お金がどれだけ入り、どれだけ出ていったか、そして最終的に手元にいくら残ったかが表示される。「キャッシュフロー」とは一般的にお金の流れという意味であるが、CF計算書では「入った(得た)お金」のことを表す。マイナスなら「失ったお金」で「お金」とは現金や預金のことを指す。例えば「5億円のキャッシュフローを稼いだ」といえば「現預金が5億円プラスになった」ことを表す。

ここで大事なのが、利益とキャッシュフローは違うということだ。利益が5億円出るのも、5億円のキャッシュフローを得るのも同じだと思われがちだが、実は違う。


■利益とキャッシュフローがズレる原因

例えば20億円の売上高に対し、15億円の費用がかかったとする。利益は5億円になるが、これだけでは、手元のお金がいくら増えたのかわからない。

具体的に次の二つのケースを考えてみる。

(1)売上高20億円はすべて売掛金とし、費用15億円をすべて現金で支払う。
(2)売上高20億円はすべて現金でもらい、費用15億円をすべて買掛金とする。

(1)のケースでは、売上高20億円がまだ現金として入っていないので、キャッシュフローは現金で払った15億円分がマイナスとなる。利益は5億円になるが、キャッシュフローはマイナス15億円という状態になる。

(2)のケースでは、売上高20億円をすべて現金でもらい、費用の15億円は買掛金による支払いにしたため、お金は1円も出ていないので、キャッシュフローは、プラス20億円となる。

このように売掛金や買掛金による取引をすれば、利益とキャッシュフローにズレが生じることになる。

もちろん最終的には売掛金の入金や買掛金の支払いが済めば、利益もキャッシュフローも同じになるが、実際の商取引では複数の売掛金や買掛金による取引が生じているため、すべて現金取引にしない限り、利益とキャッフローが一致することはない。

特にケース(1)のように売掛金による取引が多い場合、利益が出ていても手元に現金がないので資金繰りに苦労しやすく、「勘定あって銭足らず」の状態になる恐れがあるので注意が必要である。(橋本公秀)