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企業の生産性向上や組織活性化をもたらす「健康経営」の取り組み (2016年12月)
副主任研究員 吉村 謙一
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2016年1月、経済産業省が東京証券取引所と共同で「健康経営銘柄2016」25社を選定した(15年に続く2回目)。これは日本再興戦略に位置づけられた「国民の健康寿命の延伸」に対する取り組みの一つで、「健康経営」とは、従業員等の健康保持・増進の取り組みが将来的に企業の収益性等を高める"投資"であるとの考えの下、従業員等の健康管理を経営的な視点から検討し戦略的に取り組むことを意味している。

健康経営の推進は、従業員の活力や生産性の向上等の組織の活性化をもたらし、結果的に業績や企業価値の向上につながると期待される。実際欧州などでは、中長期的な企業業績と健康経営への取組みには相関関係があるとの研究成果も報告されている。また健康経営は、国民のQOL(生活の質)の向上や国民医療費の抑制など、社会課題の解決にも繋がると考えられる。

図1


さらに国が大企業および中小企業を幅広く認定する「健康経営優良法人認定制度」も現在初回募集の審査中である(2017年2月に結果発表予定)。全国各地でも自治体が独自の表彰制度を設けたり、金融機関が健康経営認定企業に低利融資を行ったりする動き等が見られる。

このように健康経営が幅広く注目を集める背景としては、現在全国的に様々な業種で人手不足感が強まる中、今後少子高齢化に伴う労働力減少がますます進むため、現有の貴重な労働力を「人的資本」として捉え効率化や生産性の向上を図らねば事業が立ち行かなくなると企業が考えるようになってきていることが挙げられる。例えば、日本経団連が2015年11月に公表した健康経営に関するアンケートでは、健康経営に取り組んでいると回答した206社(回答企業の98.5%)のうち、その目的で最多だったのが「業務効率化・労働生産性の向上」(82.0%、複数回答)であった。

人材採用力が弱い中小企業においては、従業員一人一人が果たす役割が大きく、日常業務を通して社員の健康づくりに取り組む健康経営の必要性は大企業よりさらに大きいともいえる。

最近も過重労働や過労死に関するニュースは後を絶たないが、健康に対する配慮に欠ける環境で社員が疲弊していく会社は、短期的に収益を稼ぐことができても中長期的にそれを継続することは難しい。かつてわが国で賞賛されたこともある所謂「モーレツ社員」は、現下の人材不足環境では、健康を害しての欠員リスクで収益低下につながる可能性が高いと認識すべきである。

健康経営の具体的施策としては「毎日の点呼時の体重計測で肥満対策」「高血圧社員対策として取り寄せ弁当メニューの指導改善」「社内の自販機に健康に良い商品を増やす」など身近なものから、健康診断結果データの分析、経営理念への織り込みなど様々なレベルのものがあるが、企業や職場の特性に応じた内容を丁寧に検討したい。  

中小企業はトップさえ決断すれば大企業よりも小回りが利きやすいため、経営者自らが積極的に関わり熱意を持った陣頭指揮を取ることで、健康経営の迅速な浸透を図ることが望まれる。 (吉村謙一)