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大きな価値観変化を伴う「100年ライフ」時代への対応 (2017年12月)
主任研究員 吉村 謙一
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■脱ヒエラルキーという価値観変化の象徴がSUV

元・日産GT-R開発責任者で自動車エンジニアの水野和敏氏が最近のインタビューで、長年最も一般的な車の形だったセダンが最近の販売実績ではトップ20に1台も入らず代わってSUVが人気を集める理由について、「SUVは顧客の欲求不満の捌け口」なのだと興味深いことを語っていた。

「いつかはクラウン」というキャッチコピーが象徴するように、かつては出世に合わせてカローラ、コロナ、マークⅡ、クラウンと車格の高い車に買い替えていく風潮があった。そうした目に見える社会的ポジションのヒエラルキーから脱却したいという現在の人々の価値観の反映がSUVに対する欲求なのだ、というのが水野氏の分析である。


■価値観の変化を反映できていない社会システム

こうした身近な変化にも見られる価値観の多様化やパラダイムシフトは、社会全体のレベルで様々に起こっている。

「サラリーマンと専業主婦で定年後は年金暮らしという“昭和の人生すごろく”のコンプリート率は既に大幅に下がっている」などの刺激的な表現を含む報告書『不安な個人、立ちすくむ国家』は、経済産業省の事務次官と若手官僚が2017年5月にまとめたもので、1か月間で100万ダウンロード突破と公の資料としては異例の話題を集めた。

同報告書は「今後は人生100年、二毛作三毛作が当たり前な時代にも関わらず、“昭和の標準モデル”を前提に作られた制度とそれを当然視する価値観が絡み合い変革が進まず、多様な生き方をしようとする個人の選択を歪めているのではないか」と危機感を持って変化の必要性を訴えている。

車のヒエラルキーが崩れたように、人々の意識や価値観は確実に変化しているのに、受け皿となる社会システムがそれを反映しきれていないのだ。


■「100年ライフ」を前提とした社会の再構築

2017年9月に発足した政府の「人生100年時代構想会議」の議員に選ばれたロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏の研究によると、2007年に日本で生まれた子どもの半数は107歳まで生きる可能性があるという。そうなると、20代まで勉強して65歳で仕事から引退というこれまでの一般的な直線型の人生は、引退後の期間が長すぎて経済的にも成立しなくなる。

また我々の仕事の一部がAI(人工知能)に代替される日は目前に迫っており、その面からもこれまでの社会システムは根底から見直す必要がある。これから我々は「100年ライフ」を生きる前提で全ての物事を構築し直さなければならないのだ。


■「生涯にわたる学び」への対応の重要性

2100年ライフへの対応でカギの一つになるのはやはり「教育」だろう。人生100年時代構想会議でも議題の柱の1つとされている「リカレント教育」とは、生涯にわたって教育と就労を交互に行いスキルを高める教育システムのことである。これからは「生涯にわたる学び」でスキルを更新しながら、我々は様々な仕事や社会的役割のステージを移行して複線型の人生を生き、70~80歳くらいまで働き続けることになる。

また複線型の移行を前提とする社会を目指すならば、各個人は働きながら学んで自分のスキルを常にブラッシュアップする必要がある一方、そうした学びを社会全体で支援するために、企業側でも従来型の年功序列のヒエラルキーを改めて人材の流動性を高め、副業・兼業などを認めるような制度変更も必要となるだろう。

いずれにせよ今我々が歴史的な社会の転換点に立っているのは間違いなく、100年ライフ時代への対応は喫緊の課題だといえる。(吉村謙一)