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「地方版総合戦略」は、人口減少問題の解決策となりうるか?(2015年6月)
主席研究員 島田 清彦
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日本の総人口(1億2,708万人:2014年10月1日)は4年連続で減少し、08年のピークから約100万人減った。人口急減・超高齢化という大きな課題への対応として、昨年末に「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン」及び「同総合戦略」が閣議決定された。


■地方自治体に求められる取組み

以下のような取組みが求められている。

(1)すべての都道府県及び市町村は、2015年度中に「地方人口ビジョン」「地方版総合戦略」(2015~2019年度)の策定に努める。

(2)地域経済分析システム等を活用し、地域特性を把握した効果的な政策を立案する。

(3)明確な目標とKPI(重要業績評価指標)を設定し、PDCAサイクルによる効果検証・改善を図る。

(4)各地域での自律的な取組みと地域間連携の推進。


■小規模自治体への積極的な支援が望まれる

今後、各自治体において、地域特性を踏まえた地方版総合戦略の策定が行われていくことになる。奈良県内でも既に複数の市町村が同戦略の策定に関連して、業務委託費の上限額が1000万円以上である公募型プロポーザルを実施した。

奈良県の市町村別推計人口の変化〔2013年→2014年〕を見ると、人口1万人以下の市町村で人口減少率が高く、特に2千人以下の市町村は概ねマイナス3~4%と落ち込みが大きい。このような小規模自治体は、今回求められている戦略策定等への機動的な対応が難しいと考えられる。

国は「情報支援(地域経済分析システム)」「財政支援」「人的支援(地方創生人材支援制度、地方創生コンシェルジュ制度)」を切れ目なく展開していくとしているが、人的・財政的余力が乏しい小規模自治体への重点的な支援を期待したい。


■ゼロサムゲーム、合成の誤謬にならないか?

日本は、人口減少・少子高齢化だけでなく、財政赤字や社会保障費の膨張、社会インフラの老朽化など様々な課題を抱えている。これらの課題解決に向けた議論は行われてきたが、抜本的な対策が先送りされ、その付けが地方に回ってきている。

最終的に各自治体の地方人口ビジョンの数値や、地方版総合戦略の目標数値・KPIを合計すると、現実の市場規模を超えたものになり、周辺市町村とのパイの獲得競争に陥る可能性も否定できない。

地域の人・消費・産業のパイは限られている。結局、ゼロサムゲーム(与えられたパイの取り合い)に陥り、蓋を開けると自治体間の格差が更に拡大するという懸念もある。

地方版総合戦略の策定・実行に際し、各自治体において健全な競争と共存のための連携、棲み分けが不可欠だ。道州制の是非はともかく、広域的な視点・戦略性も求められる。


図1