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気になるインバウンドの動向(Part2) (2018年8月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■2020年目標「4,000万人」に向けて

わが国を訪れる外国人旅行者(以下、「インバウンド」)は2017 年に2,869 万人に達するなど年々増加を続けている。こうした中、国が2020年にインバウンド4,000万人の目標を掲げていることから、2012年~2017年のデータを用いて、先行きを予測するエクセル関数(FORCAST)で2020年の数を予測した。その結果、2020年の値は4,219万人となり、目標の4,000万人を上回った。

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ところが観光白書・平成30年版によれば目標の4,000 万人達成は必ずしも容易ではない。同白書では、「これまではアジア諸国の急速な経済発展による所得の向上など良好なマーケット環境が続く中、ビザの戦略的な緩和や消費税免税制度の拡充などの政策が奏功したと考えられる。ただ今後は、観光地の更なる魅力向上や観光地域を支えている広い意味での観光産業の更なるレベルアップを図ることが不可欠である」としている。

つまり、これまでのインバウンドの増加には外的要因(観光客の居住国・地域に起因する要因)が大きく寄与していたが、2020年の達成には各観光地や観光産業にこれまで以上の自助努力が求められるということだ。

■インバウンドに軸足を置きすぎることを憂慮

インバウンドは、受け入れ側の観光地にとって魅力的であり、これを見過ごす手はない。当然、外国語表記やWi-Fiなどの対応も必須だ。ただ、インバウンドに軸足を置きすぎることを憂慮する。

ひとつめには、年々増加しているインバウンドの直近(2016年)の旅行消費額シェアは13.6%に過ぎないこと。確かに、ここ数年シェアアップは続いており、今後も増加が見込まれるものの、旅行消費額の中心は日本人の国内旅行(宿泊、日帰り)である。少子化等により旅行の市場全体のパイは拡大しないとはいえ、日本人の国内旅行が短期間で大きく減少するとは考えにくい。

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ふたつめには、インバウンドの増減は外的要因に大きく左右されるということ。既述したアジア諸国の経済発展はプラス効果の顕著な例であるが、裏を返せば、その国の経済状況の変化に伴いマイナス効果に転じる可能性も否定できない。しかもわが国でコントロールできない。そして、越境EC(インターネット通販サイトを通じた国際的な電子商取引)の普及も脅威だ。中国を中心としたこれまでの買い物目的の訪日は、一部これに置き換わっていくだろう。

■まとめ

外的要因は良くも悪くもインバウンド需要に大きな影響を及ぼす。そのため、受け入れ態勢強化への注力は必要だが、好調なインバウンドにばかり目を向け、日本人観光客への対応を疎かにしてはいけない。すなわち観光の振興は、インバウンドと日本人観光客の両睨みで進められるべきであると考える。