一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
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主任研究員 中井 正人
「餅つき」の持つもうひとつの意味

年末になると、家内の実家では近隣の人や親戚が集まり「餅つき」をする。昔は杵と臼を使い本格的に行っていたそうだが、最近は「餅つき器」なる機械を使い出来上がった餅の固まりを、みんなで手で小さく切って丸めていく。「餅つき」といえるのかはわからないが、参加している人達は「餅つき」と呼んでいる。

毎年年末の忙しい時期に行うので、家内や子供達は楽しみにして出かけるが、私は最近ご無沙汰している。餅はあまり好きではないことも理由である。「餅つき」は好きな人にまかせておこうとこれまでは考えていた。

いままで私にとって「餅つき」は、正月に餅を食べるために年末に行うという印象しかなかったが、実は様々な意味があるとわかった。

日本には「稲作信仰」というものがあり、稲は神聖なものだと考えられてきた。稲から採れる米は人々の生命力を強める神聖な食べ物であり、米をついて固める餅はとりわけその力が強いとされていた。そこで、祝い事がある時などは「餅つき」をするようになったそうだ。1年の始まりであるお正月は餅が重要な役割を果たすので、年末に「餅つき」をして新年を迎えるようになったという。

また、「餅つき」にはもう1つ意味がある。1人ではできないため、皆の連帯感を高め喜びを分かち合うというものである。

昔は年中行事の中で餅の贈答が頻繁に行われていた。同じ時に作った餅を配ることによって、みんなで一緒に食事をすることの代わりにしたそうである。

そう考えると、今でも地域の人々が集まって行う「餅つき」は、ご近所が同じものを食べるという貴重な機会であり、地域社会をつなぐ重要な役割を担っているといえる。

そういえば、以前私が住んでいたマンションでも毎年12月に「餅つき」大会をしていた。その時にしか顔を合わせない人や話をしたことがなかった人と言葉を交わしたり、駅ではよく合う人が同じマンションだったと気づくこともしばしばあった。「餅つき」は昔も今も地域の人々をつなぐ重要な役割を果たしていると感じる。

今ではなくなりつつある地域の人々のつながりも、「餅つき」を行うことで十分深まるのではないだろうか。たまには、家内の実家の「餅つき」に参加してみようかと考えている。

投稿者:主任研究員 中井 正人|投稿日:2018年1月
副主任研究員 中井 正人
「当たり前」のことをもう一度考える

先日、久しぶりに東京へ出かけた。駅のエスカレーターに乗ろうとすると、後ろから邪魔だといわんばかりに若い女性に左へおされた。その女性は振り返ることもなく、急いでエスカレーターを駆け上がっていった。私も荷物を持っており、相手からすれば「場所を取って邪魔だ」という思いがあったのかも知れない。急いでいるのはわかるが「すみません。通して下さい」と一言あってもいいのではないか。それが、当たり前の話だと思う。

そんな話を友人としていたら、エスカレーターの立ち位置の話になった。ご存知の通り、東京は左側に立ち急ぐ人は右側を通り追い抜いていく。大阪は逆に右側に立ち左側を通り追い抜いていく。

私も当たり前のように、東京に行けば左側に立ち、大阪や奈良では右側に立つ。理由など考えたこともなかった。それが「当たり前」と考えていたからだ。

理由には諸説ある。昔、武士が多く住む江戸では刀の鞘がぶつからないよう左側に寄った。一方、大阪は商人の町でそろばんやお金を右手に持って歩くため、その名残で右側に寄るようになったという説が有力だそうである。他にも大阪万博の時、国際的な基準に合わせてエスカレーターなどの公共の場では右側に立ち左側を通行することを呼びかけ、そのまま大阪で定着したとする説もあるそうだ。

ところで、車の場合日本は左側通行である。しかし世界的には右側通行の方が圧倒的に多い。日本以外の左側通行の国はイギリスやオーストラリアなど少数である。

世界では今でこそ右側通行が多数派だが、実は中世までさかのぼるとヨーロッパ各国のほとんどが左側通行であったらしい。フランス革命期にナポレオンの指示により右側通行に変わったという記録が残っているそうである。ナポレオンは全盛期ヨーロッパの大半を支配下におき、その過程で道路整備が行われ右側通行にしたというのである。単純にナポレオンの剣の利き手が左であったためという説や、ナポレオン軍が敵の左翼を重点的に攻撃する戦法を得意としていたという戦術的な観点から右側通行にしたのではないかという説があるが定かではない。

このように日頃「当たり前」と思っていることにも様々な理由がありそうである。現代はスピードの時代といわれるが、時には立ち止まり、「当たり前」と思っていることをもう一度考えてみることも新たな発見があって面白いのではないだろうか。

投稿者:副主任研究員 中井 正人|投稿日:2017年3月