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県内地元産業の現況  
奈良県内の繊維関連産業・流通小売業等の地元産業の現況に関する情報を提供しています。

*グラフを掲載した「地元産業の現況」(PDF版)はこちらをご覧ください。


流通小売業

近畿経済産業局発表の「百貨店・スーパー販売状況」によると3月の奈良県の百貨店・スーパー販売額(全店ベース、速報)は、前年同月比1.6%増加(近畿合計:9.5%増)と前年を上回った。

商品別内訳をみると、衣料品は前年と比較して7.4%減少(同9.4%増)、身の回り品が1.4%減少(同34.3%増)、飲食料品が1.9%増加(同4.0%増)。

円安の影響に加えて春の桜シーズンにより訪日外国人の数が大幅に増加したことで、大阪や京都など都市部の百貨店では販売額が好調だった。また国内では春休みを利用し、全国の観光地や行楽地への旅行者が増えるなど人の動きは活発になった。

3月、4月の県内百貨店・スーパーにおける状況は、長引く物価高の影響により消費者の節約・倹約志向は続き、これまで同様1人当たりの購入点数は減少している。ある店舗では「鉄道運賃などは日々の生活で節約できない。節約するなら食料品からと考える消費者が多い」と話す。他にも、より安い商品を求めて商品ごとに店舗を使い分けるなど、物価高を乗り切る消費者の工夫がうかがえる。また共働き世帯では惣菜や弁当などの中食需要は依然として高く、本当に必要なものにはお金をかけるメリハリをつけた消費が増えている。

衣料品は、例年に比べ気温の低い日が多かったため春物の販売が振るわなかった。特にトレンドよりシンプルなものを好む消費者が増えており、シンプルで安価なファストファッションの売上が伸びている。

最近は日常的に車を運転する家庭も多く、一家に2台、3台と車を所有する家庭も珍しくない。買い物に遠方まで出かけ、1週間分のまとめ買いをする家庭もあり、「今後は広い駐車場を完備し、スーパーだけでなく様々な専門店が併設する複合型スーパーが売り上げを伸ばしていくだろう。時代の変化に対応できる企業経営が重要になる」との声も聞かれる。



観光産業(宿泊施設等)

奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、2月が前年同月比17.7ポイント低下の54.5%、3月が同2.3ポイント上昇の73.7%、4月が同4.5ポイント上昇の76.1%であった。また宿泊人数は、2月が前年同月比23.3%減の32,032人、3月が同5.5%増の48,108人、4月が同9.2%増の47,838人であった。

冬の閑散期の2月には前年実施された県民割の反動減が見られたが、3月には回復基調となった。4月以降の春の観光シーズンは国内外の花見客の宿泊が好調で、その後のゴールデンウィークも総じて好調だったようだ。大企業の新人研修や学会など、ビジネス目的の宿泊・宴会需要も好調であるが、人手不足のため一部で機会損失が発生している。

インバウンドの入込客は増加しているが、日帰り客の比率が高い傾向に大きな変化は見られず、宿泊は奈良市内に偏っている。

県内では近年、奈良市内を中心に外資系ホテルや高級旅館が新規開業しており、既存施設が人材を確保・定着させるためには、労働環境への取組みが不可欠となっている。高騰する光熱費や設備の維持・更新などの費用負担が大きい中、客室平均単価(ADR)を上げることで賃上げの原資を確保していくことが、持続可能な経営の鍵となる。



木材関連産業(集成材・外材)

国土交通省「住宅着工統計」によると、2024年3月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比2.5%減少し、24か月連続の減少となった。建築資材価格の高騰で住宅価格が高止まりするなか、物価上昇に伴う実質賃金の減少により消費者マインドも悪化している。日銀が短期金利の引上げを実施すれば、住宅ローン金利が影響を受け、住宅市況のさらなる悪化を招くという声もある。

(一財)日本木材総合状況センター「4月の木材価格・需給動向」によると、構造用集成材は、中東情勢の悪化によるスエズ運河の使用取り止めで入荷量が通常の5割程度まで減少し、喜望峰経由の迂回路の利用や円安の影響で調達コストも上昇しているため、プレカット工場では通常より多く在庫を持つ動きが進んでいる。

日本の住宅市況が低迷するなか、建築資材の値上げは住宅販売価格の上昇に直結するので、集成材の製品価格の値上げも困難な状況にある。プレカット工場の稼働率がピーク時を下回っていることもあり、集成材の流通相場は今後も上昇しにくいと思われる。原材料価格の上昇が、製材業者の収益を一段と圧迫する可能性がある。

北米財の価格も全般的に上昇傾向で、為替の円安の影響も大きく、国産材の価格とほぼ同じ水準に上がっている。米国内の住宅市況が堅調で、国外への供給量が絞られているという見方もある。



繊維関連産業(靴下・パンスト等)

経済産業省「生産動態統計」によると、2024年1月~3月の靴下(パンスト除く)生産数量は10,941千点と前年同期比2.1%増加し、パンスト生産数量は11,219千点と同12.3%減少した。

靴下(パンスト除く)については、外出用途や旅行向け衣料品需要の増加に加え、インバウンド需要の増加もあり、回復基調となった。

パンストについては、ファッションの多様化に起因したパンスト需要の減衰に伴ってメーカーが年々減少を続ける中、2月にはOEMメーカーの大型倒産が発生したこともあり、生産量は前年度比で減少した。経済活動は正常化しているものの、各メーカーの生産量を補填することも難しく、しばらくの間は前年度比で減少が続く見通し。

靴下やパンストの原材料はほどんどを海外からの輸入に頼っており、円安の継続で仕入コストが増加している。あわせて、エネルギーコストの高止まりや人件費の増加で製造コストも上昇を続けており、生産現場においては更なる収益の悪化が懸念される。一方、あらゆる商品の価格が上がることで、消費者側の考え方も柔軟になり、少し値が張っても質の良いものを買う層も増加しており、自社の強みを前面に押し出した高付加価値商品を手掛けるメーカーには追い風も吹いている。



建設業

国土交通省の建設着工統計調査により2023年4月から2024年3月までの1年間の県内の工事費予定額をみると、全体の予定額は2,176億円で、民間工事は前年比3,7%の増加、公共工事は同9,5%の現象となった。なお、民間の建築物の棟数は前年比14,1%減、床面積は同9,6%減。

上記調査のとおり、民間工事は経済活動再開の動きから持ち直しの傾向が続いているが、建設資材の長納期化や人手不足の影響により、工期も長期化を余儀なくされている。工事の採算悪化を回避するため、物価スライド条項(工事の契約締結後に賃金水準や物価水準が変動し、請負代金額変更の請求が可能)の導入が進められている。

公共工事は、京奈和自動車道の大和北道路等の国土交通省による道路整備事業や大和川の護岸補修工事、レジャー・文化施設の新築・改修工事などが発注されている。

建設資材の価格が上昇を続けているのは、2024年問題を受けて資材の輸送費上昇による影響が大きいとの声がある。建設業界でも今年4月から時間外労働上限規制の適用が始まったが、早くからICT(情報通信技術)を積極的に活用するなどして生産性の向上に取り組み、労働環境の改善や工期の適正化につなげて、規制適用による影響を最小限にとどめている企業もある。



機械関連産業

内閣府「機械受注統計」によると、全国の2024年3月の機械受注は、工作機械が前年同月比7.1%減で18か月連続の減少。電子・通信機械は同23.8%増で5か月連続の増加。産業機械は同1.0%増で2か月連続の増加となった。

「奈良県鉱工業指数(2015年=100:注)」で奈良県の2023年10月〜2024年3月の機械の生産指数(原子数・平均)をみると、一般機械工業は前年同期比10.3%増の78.1、電気機械工業は同284.3%増の26.9、輸送機械工業は同11.7%減の74.0だった。

※注:抽出調査のため生産量全体の増減を示すものではない。

奈良県内の企業の動きをみると、半導体や基幹部品の供給体制はほぼ正常化し、生産は回復基調にあるものの、欧米のインフレ抑制に向けた金利高の影響や中国経済の低迷など世界経済全体の不透明感が払拭されず、受注は好調な電気自動車(EV)関連を除き、全体的に調整局面が続いている。

収益性について、価格転嫁が進み収益構造に改善の動きも一部でみられるが、円安による原材料価格や賃上げによる人件費の上昇に加えて、電気代等の製造経費が高止まっている中、多くの企業は価格転嫁交渉の継続を余儀なくされている。

設備投資は課題とされる人手不足への対応策として、生産工程の見直しに人口知能(AI)等の技術を活用し、省人化や生産性の向上に取り組む動きが急速に広がっている。