県内地元産業の現況 | |
奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、5月が前年同月比4.9ポイント低下の70.6%、6月が同3.4ポイント低下の64.9%、7月が同1.3ポイント上昇の60.5%であった。また宿泊人数は、5月が前年同月比5.4%減の48,760人、6月が同6.8%減の39,438人、7月が同0.7%増の39,544人であった。なお、前年比の増減は県民割の反動減の影響も含んでいる。
奈良県では全国に比べてインバウンドの回復が遅れる中、夏場の閑散期に入り各施設の稼働率は総じて伸び悩んでいる。日本人については、ポストコロナにおけるペントアップ(繰越)需要の一巡に物価上昇の影響も加わり、旅行マインドが悪化しているとの声がある。
県内では、インバウンドの入込客(宿泊客+日帰り客)数は増加しているが、日帰り客の比率が高い傾向は変わらず、宿泊に関して日本人の減少分を補うほどのものではない。その結果、客室平均単価(ADR)が低下している施設もある。
コロナ禍の前後には、奈良市内を中心に外資系ホテルや高級旅館、ビジネスホテルが相次いで開業し、それらが地域内で存在感を発揮するようになった。老舗施設にとっては、県内の宿泊客数の回復が遅れる中で新しい施設と宿泊客を奪い合う状況となっており、観光地の賑わいとは裏腹に、足もとの経営環境は厳しい状況となっている。
国土交通省「住宅着工統計」によると、2024年6月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比3.3%減少するなど、下落傾向が続いている。
建築資材や人件費、ならびに物流費の増加などで住宅販売価格が高止まりしており、住宅関連産業にとって厳しい環境が続いている。
農林水産省の「木材流通統計調査」によると、2024年7月の全国の国産材素材(丸太)の価格は、スギが前年同月比7.6%上昇、ヒノキも同3.4%上昇となった。木材製品価格は、スギが6.8%下落、ヒノキも5.1%下落となった。
一方、外材価格が円安の影響により上昇したことから相対的に県産材への魅力が増し、県内原木市場における2024年1~6月期の取扱高(金額ベース)は、スギが前年同期比4.2%増、ヒノキも7.4%増、原木合計で6.1%増となり、県産材を取扱う業者にとって追い風となった。
県内の一部の製材所では、「吉野杉」の“水漏れが少なく見た目が美しい”といった特徴を活かし、醸造用の木桶や樽などの高級資材として販売に注力しており、国内をはじめ海外からの引き合いも強い。
今後も、「吉野杉」が従来の注文住宅用資材に限らず様々な用途に利用され、新たな需要の掘り起こしにつながることが期待される。
経済産業省「生産動態統計」によると、2024年4月~6月の靴下(パンスト除く)生産数量は11,788千点と前年同期比8.5%増加し、パンスト生産数量は11,804千点と同0.0%で横ばいとなった。
靴下(パンスト除く)については、外出用途や旅行向け衣料品需要が引き続き増加したことに加え、インバウンド需要の取り込みに成功した事業者も見られるなど、回復基調となった。
パンストについては、新型コロナウイルス感染症の5類移行(2023年5月)を主因とした需要回復が一巡し、概ね横ばいで推移した。
6月毎月勤労統計では、実質賃金が前年同月比1.1%増加と27か月ぶりにプラスとなったが、一時的な増加であるといった見方が強く、消費者マインドの伸びは鈍化が続くと見られている。
一方、原材料費や光熱費等の製造費用は増加を続けており、従来通りの生産・販売方法では利益率の維持が困難なため、各事業者は今まで以上に自社の強みを製品に落とし込み、増加しているインバウンド需要を取り込めるように自社ブランド製品の開発を進めている。
さらには、インバウンド需要の取り込みだけでなく、高品質な日本ブランドを積極的に海外へ展開すべく、欧米などで開催される展示会やイベントへ出展し、海外での認知度をも大きく向上させようという動きも見られた。
経済産業省「商業動態統計月報(6月確報)」によれば、2024年6月の奈良県の家電大型専門店販売額は前年同月比15.6%増の3,969百万円。店舗数は前年同様の35か店となった。
今年は6月に入って気温が急上昇し、全国各地で昨年以上の記録的猛暑となったため、早いうちからエアコンや扇風機など季節商品の販売が増加した。特にエネルギー価格の高騰により、省エネ性能の高い製品が人気となっている。とりわけ白物家電では、価格が高くても高機能を求める消費者と単機能でも価格の安さを重視する消費者の二極化が見られる。
また日常使う冷蔵庫とは別の冷凍庫(セカンド冷凍庫)は、昨年に引き続き売上げを伸ばしており、「コロナ禍では外出制限による食品のまとめ買いに利用されていたが、現在は物価高騰のため価格が比較的安い時にまとめ買いした食料品の保存に利用する人が多いようだ」との声もあり、これまでとの使い方に変化が見られる。
インバウンドについては円安の影響を受けコロナ禍前を大きく上回る水準となっている。特にデジタルカメラやゲーム機が好調で、インバウンド向けにお菓子やキーホルダーなどお土産品の売り場を併設するなど、欲しいものが1か所で揃う売り場作りを進める店舗も多い。 また「購入の際のやり取りも旅の楽しさ」との発想から、英語以外の様々な言語に対応できる従業員の育成に力を入れている店舗もある。
プラスチック製品製造業の業績は、自動車・医療用関連など代替生産が困難で付加価値の高い産業用プラスチック製品の受注は海外向けを中心に回復基調が続いている。一方、日用品や家庭用雑貨などは物価高による消費者の節約志向の高まりを受け、国内向けを中心に需要は全般的に弱含んでいる。
円安等の影響で原材料であるナフサや電気代などの製造費用は高値水準が継続し、運送費や人件費などの経費も引き続き上昇が見込まれる中、価格転嫁交渉が進むのは特殊な技術を有する企業にとどまっている。中でも日用品など汎用性の高い製品を取扱う企業は、他社競合による受注減少を懸念し、取引先に対する交渉が進まないことで利益率の改善には至っておらず、業績の二極化がより鮮明となっている。
環境問題への関心が高まる中、2022年に「プラスチック資源循環促進法」が施行され、2035年までに使用済みプラスチックを熱利用も含め100%利活用する政府目標が掲げられた。資源循環と経済成長の両立を目指す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」の実現に向け、プラスチックを利用する事業者等に対し、再生プラスチック等の利用が求められることから、プラスチック製品の原材料にリサイクル材を使用する生産設備の導入・切替を進める動きが見られる。
厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、2023年12月~2024年5月累計の医薬品の生産金額の全国総計は前年同期比▲0.8%(うち受託+4.6%)、奈良県は+16.3%(うち受託+20.3%)であった。
花粉症関連などの季節性商品やインバウンドに対する販売増加を受け、一般用医薬品を中心に売上げは好調。感染症などの流行により、解熱剤の需要は引き続き高いが、供給不足は解消に向かっている。
県内企業の動向については、風邪薬を中心に一般用医薬品の販売が好調で、売上は増加傾向にある。原材料価格やエネルギー価格上昇に伴う商品への価格転嫁については進展が見られ、売上増加に寄与している。一方で人件費増加に伴う価格転嫁への理解には時間を要しており、給与水準の引き上げと合わせて人件費の価格転嫁交渉が今後の課題と考える企業もあった。
ジェネリック医薬品は、依然として供給停止や限定出荷状態の品目が多く、減産が続いている。加えてメーカーからの委託依頼は多数あるものの、事業者側の人手不足から受注できないケースも多く見られ、供給不足は当面続く見通し。厚生労働省の有識者検討会がまとめた後発薬安定供給に向けた報告書を受け、大手各社は増産への準備を進めている。一方、中小企業の多くは、今後の業界動向を注視している状況にある。
配置薬に関しては、人手不足と原材料価格の高騰による販売価格の上昇や減産により、売上は低迷している。
原材料は輸入が大半を占める中、利益率が低い日本への入荷量が減少しており、調達に苦慮しているとの声も聞かれた。また、大手メーカーの健康食品問題を受けて、業界全体に影響が出ており、今後は健康食品に関して品質管理の強化や体制見直しなどの対応が必要になると考えられる。費用の増加や人手不足で負担が増す中、小規模事業者の対応力が課題との声もある。
奈良運輸支局及び奈良県軽自動車協会によると、県内の乗用車新車販売台数は2024年1~7月の累計では、普通車+小型車が14,562台(前年同期比5.9%減少)、軽自動車が7,548台(同13.6%減少)と大きく減少した。
2024年の新車市場の動向は、業界内で認証関連の不正問題が立て続けに発生したことに伴う国内生産停止の影響を受け、全国においても新車販売台数は前年同月を下回る結果となった。一方、停止していた生産や出荷は徐々に再開しており、今後の販売台数は増加基調に転じる見込みである。
中古車市場の動向は、新車市場の動きに合わせて下取り(在庫)が減少しているため、流通量は一時的に減少している。また、物価上昇に伴って車両価格も上昇が続いているが、価格が数万円高くなっても買い控えを検討する消費者は少なく、需要は底堅く推移している。
自動運転技術については、人間でも予測が困難な状況や異常気象への対応が難航しており、たとえ技術面での課題が解消できたとしても、運転手は目を離さずに運転席に座っている必要があるなど、利用者のメリットは限定的である。また、道路交通法の改正や事故発生時における責任や保険等の問題も残っており、今後の普及には依然として時間を要すると思われる。
道路貨物運送業は、2024年問題に伴うドライバー不足が顕在化する中、物流機能を維持するための取組みが官民共同で進められている。賃上げ原資となる運賃について、大手企業との取引が多い元請事業者では、適正運賃の収受に対する荷主の理解が進んだことで値上げ交渉が進んでいるようだ。一方で、下請の中小・零細事業者では適正運賃への値上げがほとんど進捗しておらず、経営環境は厳しい。足もとの物流事業者の倒産件数が全国的に高水準な中、奈良県においても業績不振や人手不足を要因に複数事業者の倒産が見られた。公正取引委員会では荷主と物流事業者との取引に関する優越的地位の濫用事案について、注意喚起文書を送付するなど対策を強化しているが、今後は物流事業者内での元請と下請との関係是正が重要なテーマとなるだろう。
道路旅客運送業は、乗合バスが観光路線を中心に回復基調で推移したことで、利用者はコロナ前に近い水準まで回復した。一方で足もとのドライバー不足に加え、少子・高齢化の進展により通勤・通学等の利用は減少が続く見込みで、地域公共交通の再構築は不可避となっている。バス会社は、これまで不採算路線を住民の足として維持してきたが、路線の廃止・見直しについて自治体や住民との協議を進める動きがある。そのような中、一部の生活路線については自治体の財政支援で運行継続される他、AI(人工知能)を活用するコミュニティバスを運行する自治体も出てきた。 タクシーは需要の回復にドライバーの確保が追いつかず、事業者の業況は回復していない。アプリ利用は増加しており省力化に寄与するが、手数料が発生するため経費負担は増加する。地域や日時を限定して実施中の「日本版ライドシェア」について、政府が新たな方向性を議論しており、事業者にとっては先行きの経営環境が不透明な状況が続く。