県内地元産業の現況 | |
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観光庁「宿泊旅行統計調査」によると、県内宿泊施設における春季(3月〜5月)の稼働率は各月とも前年を上回り、宿泊者数も各月で前年比増加した。奈良国立博物館の特別展「超国宝」の人気が高く、開催期間の6月中旬までは概ね堅調に推移した。その後、例年よりかなり早く6月下旬に梅雨明けしたが、7月以降続く連日の猛暑が県内観光の足を引っ張っている。北中和エリアでは日本人の宿泊者数の減少が顕著で、奈良ファンの多い首都圏の富裕層などが、炎天下での神社仏閣巡りを避けていることがうかがえる。各施設とも普段は満室になることもあるお盆の時期の予約にも空きがあり、夏季は期間を通して不調となる見込みである。一方で南和エリアの山間地にあるキャンプ場や温泉地は好調に推移しているとの声があり、エリアによって明暗が分かれている。
大阪・関西万博の来場者が県内を周遊観光することによる様々な効果が開幕前から期待されており、実際に万博会場から奈良公園に大きな人流が発生しているとの分析結果もある。しかしながらこれらは日帰り客が中心で、奈良公園周辺に短時間滞在し大阪に帰る外国人観光客も多い。県内の宿泊施設においては「ランチなどで多少のプラス効果はあるものの、万博に見込み客を奪われてマイナスの影響の方が大きい」との声がある。また修学旅行についても、これまで奈良市内に宿泊し長時間滞在していた学校が今年は万博メインの旅行となり、西ノ京など市内中心部から外れた観光地については訪問する時間が取れないようだ。
奈良市内など文化観光が中心の観光地は、近年、猛暑の影響で夏季の国内旅行先として敬遠される傾向があり、外国人観光客がその分をカバーする状況となっている。施設での滞在時間の長期化を踏まえ、客室・設備の充実や体験型イベントの開催など、宿泊者が施設内で快適に過ごすための取り組みを強化する動きが見られる。
国土交通省「住宅着工統計」によると、2025年1〜6月期の木造住宅の新設着工戸数は住宅販売価格の高止まり等により前年同月比4.3%減少している。加えて人件費や物流費等の増加など、住宅関連産業にとって厳しい環境が続いている。
農林水産省「木材流通統計調査」(※)によると、2025年7月の全国の国産材素材(丸太)の価格は、同年1月と比べると、スギが1.3%下落、ヒノキは0.4%上昇となった。木材製品価格は、スギが1.6%上昇、ヒノキも0.5%上昇となった。
一方、外材価格が円安の影響により上昇し、相対的に国産材への需要が高まっていることに加え、欧米での和食人気の高まりから高級寿司カウンターや醤油醸造用木桶等、高級材としての県産材の用途は広がりを見せており、県内原木市場における2025年1〜6月期の取扱高(金額ベース)は、スギが前年同期比20.5%増、ヒノキが同4.3%増、原木合計では同10.9%増となっている。
五條市に2028年の操業開始を目指し、大手マンションデベロッパーの工場が建設される。奈良・和歌山県産のスギを原料とする新木質建材を製造することから、県産材を取り扱う地場業者や地域にとって明るい話題となっている。
(※)2025年調査から、調査対象となる地域や工場等の見直しが行われた結果、前年の統計数値と接続しないため、今回は連続性のある同年1月と比較。
経済産業省「生産動態統計」によると、2025年4月〜6月の靴下(パンスト除く)生産数量は9,989千点と前年同期比15.2%減少し、パンスト生産数量も8,727千点と同26.1%減少した。
靴下(パンスト除く)については、1月に県外でスポーツ用靴下を製造している事業者が倒産するなどの影響もあり、生産数量は減少した。また、7月には県内の中規模事業者が破産申請の準備を開始するなど、今後も減少が続く見通し。
パンストについても、2023、24年と県外中規模メーカーの倒産が続き、今年3月にも大手メーカーの県外ストッキング生産工場が閉鎖するなど、生産数量の減少は続いている。
近年、業界内では「安価な海外製品と競合するOEM生産を続ける事業者の経営は厳しくなるのではないか」との懸念が広がっており、実際に直近数年間の動向を見てみると、中規模以上の事業者の倒産や工場閉鎖が相次いでおり、この懸念は表面化してきたと言えるだろう。
一方、2024年の靴下輸出額は約27億4,800万円と過去最高を更新するなど、高付加価値化に成功した事業者の製品は世界的に評価を高めている。
今後も両者の格差は広がりを見せる中、薄利多売のOEM製品の生産数量減少に伴い、国産製品全体の生産数量も減少が続く見通し。
経済産業省「商業動態統計月報(6月確報)」によると、2025年6月の奈良県の家電大型専門店販売額は前年同月比5.4%増の4,182百万円。店舗数は前年同様の35か店となった。今年は6月頃から全国各地で昨年を上回る記録的猛暑となったため、エアコンや扇風機など季節商品の販売が増加した。店舗によっては例年より早めのセールを展開するなど、消費者の早期購入の定着に向けた取り組みも見られる。また今年は、2020年のコロナ禍によるステイホーム対応やリモートワークの普及により購入されたパソコンの買い替えの時期を迎えた消費者が多かったため、パソコンの販売額が増加した。他にも新作ゲーム機の発売に伴うゲーム関連商品の販売も好調となった。
それ以外にもテレビの売り上げが伸びている。以前に比べ大型テレビの価格が下がっていることから、特に60型以上の大型テレビの購入が増えている。薄型で壁掛けタイプのテレビも人気で、リフォーム事業を展開する大型量販店では、テレビの購入と共に壁の補強工事も行うなど、1つの店舗で購入と工事を完結することで消費者の利便性を高めている。
食料品などの物価高騰により消費者の生活にかかる負担は年々増加している。こうした生活の中で少しでも出費を減らすため、省エネ性能の高い製品が人気となっている。消費者にとっては初期投資にお金をかけたとしても、長期的に考えると電気代の節約につながることが商品購入における重要なポイントの1つとなっているようだ。
プラスチック製品製造業は、付加価値の高い競争優位な製品を取扱う企業が好調な業績を維持する一方、汎用品等を取扱う小規模・零細企業では受注の低迷や価格転嫁が進まず売上が伸び悩む企業もあり、業績の二極化がより鮮明となっている。
原材料であるナフサの価格は中国経済の低迷や原油安の影響で下落基調にあるものの、物流費や人件費など原材料費以外のコストは依然上昇している。
産業用では米国の関税対策等から先行き不透明感が強まっており、自動車産業を中心に受注が大幅に減少するなど弱含んでいる。生活関連用では食料品等の価格高騰の影響や消費者の節約志向の高まりから相対的に容器や日用品雑貨への支出が伸び悩んでおり、プラスチック製品全般の需要は低調に推移している。
新たな市場ニーズの獲得に向け、新製品の開発等を目的とした大規模投資や人手不足への対応から省力化を目指した設備導入に踏み切る動きも一部でみられるが、足元の収益環境は厳しく、思い切った設備投資に踏み切れない企業が多い。
環境問題への関心が高まるなか、2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法」をきっかけにリサイクル資源の活用や再生原料を使用する企業が増加しており、資源循環の促進に向けた取り組みが徐々に広がっている。
厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、2024年12月〜2025年5月累計の医薬品の生産金額の全国統計は前年同期比▲1.4%(うち受託+5.4%)、奈良県は▲1.8%(うち受託+32.1%)であった。
全国的には、医療用医薬品の売上が増加し過去最高額を更新。定期接種となった新型コロナワクチンや、子宮頸がんワクチンなどの「ワクチン類」が前年比で大きく伸び、医療用医薬品市場の成長に貢献した。また、ドラッグストアを中心にインバウンド需要の回復が見られる。
県内企業の動向については、一般用医薬品の販売が好調を維持している。2024年末から翌年春先にかけて、季節性感染症などの流行を受け、風邪薬の需要が高まった他、花粉症関連商品の需要増加も売上増加に寄与した。なお、一般用医薬品は大手製薬メーカーからの増産依頼に加え、ドラッグストア等のプライベートブランド商品の販売増加に伴い、県内受託生産の増加につながっている可能性があるとの話も聞かれた。
原材料価格の上昇は継続しているものの、上昇スピードは緩やかになりつつある。また、県内の大手事業者を中心に、エネルギー価格や物価上昇に起因する商品への価格転嫁にも進展が見られ、収益率の改善に繋がっている。
ジェネリック医薬品は、依然として供給停止や限定出荷状態の品目が多く、先発医薬品へ回帰する動きも見られ、医療費の増大が国家財政への負担となっている。政府の要請を受け、ジェネリック医薬品大手各社は安定供給体制の構築に向けた取組みを進めているが供給不足解消には時間がかかる見通し。
配置薬に関しては、原材料価格の高騰による販売価格の上昇や終売品目の増加・製造の廃止が続き、売上は低迷している。高齢化や後継者不足により廃業を余儀なくされる事業者も見られ、県内配置薬事業の縮小が進んでいることを危惧する声があった。
奈良運輸支局及び奈良県軽自動車協会によると、奈良県内の乗用車新車登録台数は2025年1〜7月の累計では、普通車+小型車は15,129台(前年同期比3.9%増加)、軽自動車が8,727台(同15.6%増加)となり2年ぶりに増加した。
奈良県内における2025年の新車市場は、大手メーカー同士の経営統合破断などを受け、一部メーカーの販売が低調に推移したものの、2023年に業界内で発覚した認証申請不正問題による販売不振からは脱却し、前年実績を上回る結果となった。
米国の関税問題については。15%の税率で合意に至ったと見られ、当初懸念されていた最悪のシナリオは回避されたようだが、メーカーの収益や事業戦略に大きな打撃を与える懸念は強い。そのため、輸出台数の変動に伴い、国内に出回る新車台数や車両価格相場に影響が及ぶ可能性もあるが、その効果は限定的にとどまる見込み。
中古車市場の動向については、新車市場と比べて、趣味嗜好による購入は限られており、生活に必要とする実需に基づく購入が中心で、特に公共交通網が十分に整備されていない地域での需要は底堅く、堅調に推移する見通し。
総じて、関税問題に伴う先行き不透明感は残るものの、新車・中古車を問わず、国内ディーラーにとっては今後も安定した経営環境が続くと思われる。
道路貨物運送業は、運賃の値上げ交渉に一定の進捗が見られるが、下位の下請ほど交渉は難航しており、燃料価格の高騰、車両の維持・更新費用や人件費など諸経費の増加を受けて県内事業者の資金繰りは悪化している。ドライバーの時間外労働規制の強化に伴い短距離輸送の割合が増加しているが、収入の減少に加え、複数の目的地を短時間で移動する運転は長距離輸送に比べて疲労感が大きく、ドライバーの離職につながっている。6月に成立した新法では、過当競争防止のための許可更新制が導入されたほか、再委託の回数制限を努力義務とするなど、国では業界の待遇改善に向け規制の強化に動いている。参入規制の緩和に伴う過当競争で苦境に陥った同業界にとって大きな転換点となる可能性もあるが、法律の施行により現在の状況が一気に改善するものではなく、当面は厳しい経営環境が続く。
道路旅客輸送業は、観光路線でインバウンドの利用が増加しており、乗合バス事業は増収となっている。万博目的で来日し日帰りで奈良観光を楽しむ人の利用が多いようだ。万博会場行き直行バスの人気は高く開催期間中に増便するなど、万博による事業への好影響が見られる。事業者にとっては、万博に振り向けている経営資源を閉幕後いかに活用するかが課題で、インバウンド対応の強化や先進技術の導入などが、人口減少化での成長戦略として優先順位が高くなっている。
タクシーは、万博来場者の県内利用や会場行きリムジンの稼働が低調で、バスに比べて万博開催に伴う好影響は少ない。ビジネス、観光需要ともに利用者は回復しているが、近年の猛暑、豪雨などの異常気象とそれに伴う鉄道の計画運休は外出抑制につながり、業界にとってマイナス要因となる。夜間については、ビジネス需要の回復が鈍く、新たなイベント等によるナイトタイムエコノミー拡大を通じた需要喚起への期待は大きい。