県内地元産業の現況 | |
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近畿経済産業局発表の「百貨店・スーパー販売 状況」によると12月の奈良県の百貨店・スーパー販売額(全店ベース、速報)は、前年同月比1.2%増加(近畿合計:4.8%増)と前年を上回った。
商品別内訳をみると、衣料品は前年と比較して0.3%増加(同7.5%増)、飲食料品が1.8%増加(同2.5%増)、身の回り品が11.4%減少(同4.0%増)。
前年に引き続き国内旅行やインバウンドの増加により、大阪や京都など都市部の百貨店では販売額が好調だった。また今年は元日だけでなく1月2日を休業とする店舗が都市部では多く見られるなど従業員の労働環境改善を重視する傾向が見られた。
12月、1月の県内百貨店・スーパーにおける状況は、長引く物価高の影響で消費者の節約志向が続く厳しい状況となっている。
食料品は、昨夏の猛暑や天候不順による生鮮野菜の出荷量の減少が原因となり、価格高騰が続いている。生鮮野菜を購入し、食べきれず食品ロスを出すよりも総菜や弁当、冷凍食品など調理済みの食品や価格を抑えたPB(プライベートブランド)商品の購入が増加している。物価高の影響から消費者1人当たりの購入数は減少しているものの、年末年始など家族の帰省のタイミングには、高価なおせち料理や肉が売れるなど、節約と贅沢のメリハリをつける消費者が増えている。
衣料品は比較的暖かい日が続いたことから冬物衣料の売上げが伸びなかった。最近はオフィスカジュアルや身だしなみの基準を緩和する企業も増えており、ビジネススーツやネクタイなどの販売が減少している。
人件費や電気代等の高騰により経費削減に取り組む店舗も多い。「折込チラシを無くすことも考えている。ただ開催する催事によってターゲット層が違うため今後は世代に合った発信方法が重要になる」との声もある。
奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、11月が前年同月比1.6ポイント上昇の84.2%、12月が同11.0ポイント上昇の70.7%、1月が同6.5ポイント上昇の52.5%であった。また宿泊人数は、11月が前年同月比2.4%増の53,570人、12月が同19.9%増の47,675人、1月が同25.8%増の36,686人であった。
日本人の宿泊者数は、宿泊費の高騰や猛暑の影響で夏場はやや弱含んで推移したが、秋の行楽シーズンは好調に推移した。年末年始の日並びが良かったことなどから閑散期である12月、1月の落ち込みが例年より少なかった。近年、夏場の猛暑で寺社仏閣巡りなどの文化観光を控える動きが見られるが、その反動として冬場の観光が好調になっているとの声もある。
インバウンドの宿泊者数は、中国からの来訪者が増加し続けている。欧米、韓国・台湾・香港などの東アジアからの来訪者が続くが、コロナ前に比べて東南アジアやインドなどの来訪者が増加している。
宿泊税導入に向けた議論が県内でも活発になりそうだ。観光地としてのインフラ整備を進める上で有効な施策であり、また地域住民が観光振興に理解を示す機会ともなるが、事業者の事務負担などを勘案し、関係者のコンセンサスを得ることが不可欠となる。
国土交通省「住宅着工統計」によると、2024年12月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比4.7%増加し、直近は下げ止まりつつあるが、建築資材費、人件費、物流費等の増加などで住宅販売価格が高止まりしており、住宅関連産業にとって厳しい環境が続いている。
農林水産省「木材流通統計調査」によると、2024年12月の全国の国産材素材(丸太)の価格は、スギが前年同月比0.6%下落、ヒノキも同5.1%下落となった。木材製品価格は、スギが同4.8%下落、ヒノキも同5.9%下落となった。
一方、外材価格が円安の影響により上昇し、相対的に県産材への需要が強まっていることに加え、インバウンド需要により旅館やホテルから建築資材として県産材の人気が高まっていることから、県内原木市場における2024年1~12月期の取扱高(金額ベース)は、スギが前年同期比15.7%増、ヒノキも3.2%増、原木合計で7.7%増となっている。県産材を代表する吉野スギ・ヒノキは、林道が付いていない急峻な山間からの切り出しが多いため、ヘリコプター輸送が欠かせないが、燃料費高騰や人手不足等から、搬出が困難な状況となっている。このため、事業者の組合で搬出作業の担い手を育成しているほか、奈良県でもヘリコプター搬出時に独自の助成金を出すなど、官民一体で産業の保護・育成に取り組んでいる。
経済産業省「生産動態統計」によると、2024年10月~12月の靴下(パンスト除く)生産数量は10,790千点と前年同期比8.6%減少し、パンスト生産数量も10,459千点と同10.7%減少した。
靴下(パンスト除く)については、インバウンド需要といった増加要因はあるが、生産ロットの大きいOEM生産では、受注を採算が取れる範囲に絞る動きが見られるほか、少量でも高付加価値で利益率の高い自社ブランド製品の製造・開発を強化する方針へ舵を切る事業者が増えたことから、生産数量は減少した。
パンストについては、OEM生産を手掛ける県外の中規模事業者が2023、2024年と立て続けに倒産したことや、昨年の暖冬の影響で販売店に在庫が残り、今シーズンの受注が減少したことから前年比で減少した。今冬は寒波の影響が強く、販売店に残っていた在庫は一掃できるとみられ、来冬に向けての受注は回復する見通しだが、パンストそのものの需要は緩やかに減少が続いており、中長期的な先行き不透明感は払拭できていない。
1月に奈良公園バスターミナルにて県靴下工業協同組合主催で「新春靴下の市」を開催したほか、4月から開催される大阪・関西万博では、奈良県ブース内の広陵町エリアで広陵靴下をPRする予定であり、ブランド化に向けた認知度アップ、高付加価値商品の販促活動を積極的に進めている。
プラスチック製品製造業は、自動車生産の回復の遅れや日用品など消費財の販売不振を背景に受注は全般的に伸び悩んでいる。生産も昨年秋以降低下傾向が続いているが、24時間生産体制の維持や納期の短縮など一定の生産量を確保する必要があり、在庫は増加傾向にある。
原材料であるナフサの価格は原油安や中国をはじめとするアジア地域の需要低迷の影響で落ち着いているが、賃上げに伴う人件費や運送費などの物流コスト、電気代などの製造コストは引き続き上昇が見込まれている。
コスト上昇分を価格転嫁できる事業者は、食品関連や医療向けなどの高付加価値製品を取扱う一部の事業者にとどまり、日用品や汎用品などを取扱う小規模・零細事業者を中心に大半の事業者は価格転嫁交渉がスムーズに進まず、収益の確保に苦慮している。製造工程の見直しによる省力化や人手不足を前提にした無人化などのコスト削減を進めることで足元の収益確保を目指している。
環境への配慮の機運が高まる中、脱炭素・循環型社会の構築と経済成長の両立を目指す「循環経済(サーキュラーエコノミー)」の実現に向け、植物由来や再生材の利用拡大が見込まれ、県内の事業者にも微生物などの働きで分解される「生分解性プラスチック」の新素材を使用した製品の開発などに着手する動きがみられる。
厚生労働省「薬事工業生産動態統計」によると、2024年6月~2024年11月累計の医薬品の生産金額の全国総計は前年同期比+1.7%(うち受託+13.4%)、奈良県は+4.9%(うち受託+62.1%)であった。
全国的には、ドラッグストアを中心に一般用医薬品の販売が増えた他、外出機会の増加を背景とした化粧品等の販売も増加した。また、インバウント需要も緩やかな回復が見られる。
県内企業の動向については、インフルエンザ等感染症の流行を受け、解熱剤を中心に一般用医薬品の販売が好調で、売上は増加傾向にある。原材料価格やエネルギー価格上昇に伴う商品への価格転嫁は進んでいるが、労務費を中心とした経費増加分については、交渉を必要とする状況が続いている。
業界全体で引き合いは多くあるものの、人員確保ができず受注できない状況。人材確保や春闘で示された賃上げ水準への対応に向け、業界全体が適正価格での商品販売をしていく必要があるとの声も聞かれた。
ジェネリック医薬品は、依然として供給停止や限定出荷状態の品目が多く、減産が続いている。また、感染症の流行を受け、咳止めや解熱鎮痛剤が不足している。ジェネリック医薬品メーカーは多くの品目を少量ずつ製造する会社も多く、急な需要に生産体制が追い付かないケースも見られる。加えて、毎年の薬価改定による薬価引き下げが続く中、原材料価格や人件費の上昇により、不採算に陥る医薬品が出てくる可能性がある。政府の要請を受け、ジェネリック医薬品大手各社は増産対応の取り組みを進めているが、供給不足解消には時間がかかる見通し。
配置薬に関しては、原材料価格の高騰による販売価格の上昇や終売品目の増加・製造の廃止が続き、売上は低迷している。また、営業人員の減少や高齢化により配置薬事業の縮小が進んでいる事を危惧する声があった。
奈良運輸支局及び奈良県軽自動車協会によると、奈良県内の2024年の乗用車新車登録台数(普通+小型+軽)は前年比2,093台減(▲5.2%)の38,196台となり2年ぶりに減少した。
2024年の新車市場の動向は、業界内での認証申請不正問題に伴う国内生産・出荷の停止が影響し、前年を下回る結果となった。一方、当該要因を除けば堅調に推移したと見られており、物価上昇の影響による需要の減衰もわずかで、今後の販売台数は堅調に推移する見通し。
古車市場の動向については、コロナ禍が収束してからの在庫数が比較的安定しており、販売数も概ね横ばいで推移している。一部の新車で長納期化が解消されていないことから、実需に合わせて短納期で車が欲しい消費者からのニーズは堅調であり、今後も安定した需要が期待できる見通し。
EV車については、個人向け需要の掘り起こしには時間を要すると見られるが、職員による車での長距離移動が比較的少ない法人や自治体向けに対しては徐々に普及が進んでいる。
業界大手同士の経営統合については、協議打ち切りとなったが、提携や協調等によって経営の効率化を図る動きが今後も出てくる可能性がある。また、メーカーだけでなく、同エリアで同メーカーの看板を掲げるディーラー同士の統廃合は、より一層進む見通し。
道路貨物運送業は、改正物流関連2法の成立に伴い時間外労働の上限規制が適用(2024年問題)され、ドライバーが収入の減少により離職する動きが見られる。そのため下請けの小規模事業者などでは人手不足が深刻化しており、元請からの発注を断るケースもあるようだ。ドライバーを確保するためにはその原資となる運賃の見直しが必要で、国が悪質な荷主・元請事業者等の是正指導を強化するなど交渉を行う環境は整ってきたものの、希望通りの回答を得られるケースは少ない。また、補助金の段階的縮小に伴うガソリン価格の高騰もあり、経営環境は厳しさを増している。
道路旅客運送業は、乗合バスは観光路線を中心に回復しており、利用者はコロナ前とほぼ同水準にまで回復した。一部企業でテレワーク、副業など多様な働き方が定着し通勤等での定時定路線の利用は減少しているが、その分を外国人観光客による観光路線の利用増加が補う形となっている。なお、県内での外国人観光客の利用は一部路線に限られることから住民生活への影響は比較的軽微となっている。一方、今後の人口減少を見据えた乗合バスの路線見直しや運賃の改定は中長期的に必要な対応となるが、住民生活への影響が大きく慎重な判断が求められる。
タクシーは、観光需要が好調で、ビジネス需要も回復してきた。そのような中、奈良県におけるタクシー運賃の改定が2024年11月から実施された。各事業者においては、運賃改定に伴う増益分を賃上げなど労働条件改善の原資とすることでドライバーを確保し移動需要に的確に応える一方、新運賃での利用状況を把握し、地域の足としての役割を維持していくための取組みが求められる。なお、県外の一部地域で実施中の日本版ライドシェアは、現時点では利用者のメリットが乏しく、タクシーの代替手段としての機能発揮は限定的なようだ。