県内地元産業の現況 | |
近畿経済産業局発表の「百貨店・スーパー販売状況」によると9月の奈良県の百貨店・スーパー販売額(全店ベース、速報)は、前年同月比0.3%減少(近畿合計:2.3%増)と前年を下回った。
商品別内訳をみると、衣料品は前年と比較して3.8%減少(同0.3%増)、身の回り品が13.7%減少(同1.0%増)、飲食料品が0.5%増加(同0.7%増)。
訪日外国人の増加や国内旅行の増加により、大阪や京都など都市部の百貨店では販売額が好調だった。「令和の米騒動」といわれた8月の米不足も現在は落ち着きを見せているが、価格は高騰しており消費者の家計への負担は増えている。
9月、10月の県内百貨店・スーパーにおける状況は、長引く物価高の影響によりこれまで以上に消費者による購入品の取捨選択がシビアになっている。
衣料品は秋物の販売が振るわなかった。長引く残暑の影響以外にも衣料品を買い控えた分を食品購入に充てるなど、消費者が食品や日用品など生活必需品の購入を優先する傾向が見られた。
食料品は、使い切れるカット野菜や冷凍野菜の売上が伸びている。ある店舗では「消費者が猛暑や天候不順による野菜の価格高騰を受け、一度に食べきれず腐らせるなど食品ロスを減らすことで節約につなげているようだ」と話す。また日常の買い物には少しでも安い商品を求めて店舗を使い分けるものの、ハレの日やお盆など帰省のタイミングには高価な肉やお菓子を購入するなど、節約とぜいたくのメリハリをつける消費者も増えている。
長引く物価上昇であらゆる商品の値上げが進み家計を直撃している。「今は消費者の商品購入点数が少なくても、1つ1つの商品単価が上がっているため売上に大きな変化は見られない。ただこれがいつまでも続くとは限らないので、今後の対策を早急に考える必要がある」との声も聞かれる。
奈良市および周辺主要ホテル8社の客室稼働率(単純平均)は、8月が前年同月比4.5ポイント上昇の66.3%、9月が同0.5ポイント上昇の62.2%、10月が同4.9ポイント上昇の78.7%であった。また宿泊人数は、8月が前年同月比10.2%増の49,738人、9月が同3.1%増の39,538人、10月が同6.2%増の51,697人であった。
日本人の宿泊者数は、2022年以降、旅行マインドの回復に加えポストコロナのペントアップ(繰越)需要もあり順調に増加してきたが、足もとは物価高騰の影響による節約志向や宿泊費の高止まりにより、旅行マインドが悪化している。正倉院展が主目的の宿泊者は関東方面からが中心となるが、秋の行楽シーズンを通じ関西方面のシェアが増えているとの声もあり、旅行先に近場を選ぶ動きが一部にあるようだ。インバウンドの宿泊者数は全国に比べて回復が遅れていたが、足もとは奈良市内を中心に増加している。国籍別では中国からの比率が高まっているが、コロナ前に多かった団体客の回復は鈍く個人客が増加している。
中南和はインバウンドの回復が奈良市内に比べて鈍く、宿泊者数の回復は遅れている。9月に「飛鳥・藤原の宮都」が世界遺産への国内推薦候補に選定され、県内での周遊観光の促進が期待されるが、受入体制の整備など観光地としての魅力をより一層高めるための取組みが不可欠となる。
国土交通省「住宅着工統計」によると、2024年9月の木造住宅の新設着工戸数は前年同月比1.3%増加したが、下落基調が続いている。建築資材価格の高騰などで住宅価格が高止まりするなか、物価上昇に伴う実質賃金の減少や日銀による政策金利の引き上げが、消費マインドの悪化につながっており、住宅市況にとって厳しい状況にある。
建築資材が高騰しているため、一部の建築現場では品質がやや落ちる価格の安い国産杉を用いた集成材を使う動きが見られるものの、住宅市況低迷により、集成材メーカーの受注は前年比80~90%の水準で推移しており、集成材の市況も厳しい状況にある。
(一財)日本木材総合情報センター「10月の木材価格・需給動向」によると、梁(はり)や柱に用いられる構造用集成材の原料となるラミナ(集成材を構成する挽き板あるいは小角材のピース)の一部は、紛争リスクの高いスエズ運河を避け、輸送費が高い喜望峰周りの輸送が続いてるうえ、台風等の影響等により輸入量が減少していることから、仕入れ価格が上昇傾向にある。
県内の最低賃金は物価高を反映し、昨年は40円、今年は50円と引上げられており、人件費も上昇している。原材料価格や人件費の上昇が製材業者の収益を一段と圧迫している。
経済産業省「生産動態統計」によると、2024年7月~9月の靴下(パンスト除く)生産数量は11,682千点と前年同期比1.6%減少し、パンスト生産数量は11,523千点と同5.5%増加した。
靴下(パンスト除く)については、インバウンド需要の増加等で回復基調となっていたが、昨年の暖冬を受け、在庫が残っていた販売業者も多く、生産数量は減少した。
パンストについては、2月に発生したOEMメーカーの倒産による影響が薄れ、生産数量は増加に転じたが、今後もファッションの多様化が進むにつれ、長期的に見れば需要は緩やかに減少することが見込まれる。
現在では、靴を履かずにランニングができる靴下や靴下編み機で作られた靴といった新たな製品の開発も進んでおり、将来的に一般的な靴下の需要が減少する可能性もある。
しかし、人々が素足で外出する時代はまだ先になると見られ、各事業者は自社の強みを活かしつつ、消費者のニーズをしっかりつかもうと、求められる製品の研究開発に励んでいる。
また、9月下旬には、県靴下工業協同組合が技術力や特性などに優れた県産靴下を知事にPRするとともに、観光客や地元住民へのアピールも行うべく、今後は奈良公園バスターミナルで靴下マルシェの開催も計画されている。
国土交通省の建築着工統計調査により2023年10月から2024年9月までの1年間の県内の工事費予定額をみると、全体の予定額は2,327億円で、民間工事は前年比34.3%の増加、公共工事は同41.5%の減少となった。なお、民間の建築物の棟数は前年比6.3%減、床面積は同15.3%増。
上記調査のとおり、民間工事は景気の緩やかな回復を受け設備投資が底堅く推移し、全体的に受注額が増加している。公共工事は前年の市町村が発注した工事が一巡し、減少している。
民間部門では、施主が資材価格の変動に応じて契約額を見直す「スライド条項」に応じないケースが見受けられる。
今年4月から「2024年問題」が本格化するなか、人手不足に拍車がかかり、人件費や物流コストが高騰するほか、建設資材価格の高止まりなどの影響が中小の建設業者の経営を圧迫している。
また、新型コロナ関連のゼロゼロ融資(無利子、無担保)の返済負担も有り、建設業者の倒産件数が増加しており、業界にとって厳しい状況が続いている。
奈良県は、昨年より、働き方改革、社会貢献、品質確保、災害対応に取り組む企業を「奈良県きらぼし建設企業」として認定(2024年11月現在98社)し、県内の優良建設企業を応援する制度を作り、業界全体の底上げを図っている。
内閣府「機械受注統計」によると、全国の2024年9月の機械受注は、工作機械が前年同月比11.2%減で2か月連続の減少。電子・通信機械は同5.8%減で11か月ぶりの減少。産業機械は同12.7%増で3か月ぶりの増加となった。
「奈良県鉱工業指数(2015年=100:注)」で奈良県の2024年4月~2024年9月の機械の生産指数(原指数・平均)をみると、一般機械工業は前年同期比13.3%減の68.4、電気機械工業は同75.3%減の1.8、輸送機械工業は同13.5%減の68.0だった。
*注:抽出調査のため生産量全体の増減を示すものではない。
奈良県内の企業の動きをみると、欧米市場での競争激化や中国経済低迷による影響で、これまで堅調に推移していたEV自動車や半導体関連の需要に陰りが見られるなど、受注・生産の動向は全体的に弱含んでいる。
今後も原材料価格や製造経費等のコスト上昇が予想され、取引先との交渉により適正な価格転嫁を実現し、収益確保が図れるよう生産工程の見直しに伴う納期の短縮や高付加価値製品の提供など他社との差別化に取り組む企業が多い。
各国の金融・経済情勢の先行きの不透明感から大規模な設備投資に踏み切る動きは鈍いものの、今後の成長が見込まれるAI関連の製造装置や人手不足・賃金上昇を背景に自動化・省人化に貢献する設備の導入ニーズがより高まっている。