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■在庫が利益をきめる
中小企業の業況は、平成20年秋のリーマン・ショック後の景気後退から、一時的に持直しの動きが見られたが、22年夏以降落ち込み、その後、震災の影響を受け大きく悪化した。20年度と22年度の売上高、在庫、粗利益と在庫回転期間(日)の推移を主な中小企業で比較してみると、図1のとおりとなった。
業況の悪化により売上高が減少し、それに応じて、在庫も減少していることがわかる。各々の在庫回転期間は、短くなっていることから、在庫の過大化やリードタイムの長期化による損失を防ぐため、企業努力により在庫削減に取組んだ成果がうかがえる。
■在庫の増加は利益の増加
一方、売上高は同じでも、期末在庫の決算処理を変えることにより、粗利益も同様に変えることが可能となるケースを考える。
図2のとおり、在庫が増加すれば利益も増える。在庫が多ければ売上原価が小さくなるからである。逆に在庫が少なければ、売上原価は大きくなり、利益が小さくなる。
在庫、売上原価、利益の関係はつぎのとおり。
粗利益=売上高-売上原価
売上原価=期首在庫+期中仕入高-期末在庫
では、在庫が増えれば儲かっているのだろうか?
■在庫と営業キャッシュフローの関係
(勘定あって銭足らず=黒字倒産)
利益の他に、在庫の影響を受けるのが営業キャッシュフローだ。最近は、利益以上に重要な指標として取扱われる。なぜ、この指標が注目されるのか。
営業キャッシュフローは、会社が営業段階で稼ぐキャッシュフローで、言わば会社が自由に使えるお金のことである。利益が出ていると営業キャッシュフローもプラスと思いがちだが、在庫の増加により利益が出ているだけでは、ほとんどの場合、営業キャッシュフローはマイナスになる。
この営業キャッシュフローのマイナスには、特に注意が必要である。在庫が増えただけでは、自由に使えるお金が増えないので、その時点ではまだ儲かっていない。
一見、利益が計上されていても、手元に自由に使えるお金が全くないと、最悪の場合「黒字倒産(勘定あって銭足らず)」という事態が発生する可能性もある。取引先の決算書を入手できるなら、売上高、利益の増減に注目するだけでなく、在庫の増減にも注意する必要がある。(橋本公秀)