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■拡大傾向にある中小企業の海外展開
円高、原材料高、電力問題、国内市場の縮小など国内の事業環境が悪化する中、アジア新興国の市場拡大や取引先の海外移転等に対応するため、近年、大企業だけでなく中小企業においても海外展開が拡大傾向にある。
2012年版中小企業白書によると、現在わが国の中小製造業における輸出企業の割合は約3%だが、2001年から2009年にかけて、企業数と割合のいずれもが増加傾向にある(図1)。
■海外展開による国内事業の活性化
一般的には、海外展開の拡大は産業空洞化につながるイメージがあるが、「海外展開した中小企業の国内事業はむしろ活性化されることが多い」というデータも同白書で示されている(図2)。
それによると、直接投資(海外での法人設立や経営参加を目的として行う投資)が国内雇用に与える影響をみると、98~04年度に直接投資を開始した中小企業では、投資開始から5年後の国内従業者数が投資前に比べ約7%伸びるなど国内雇用が拡大傾向にあり、海外展開が国内事業の活性化につながっているという
海外事業を国内でサポートする体制強化のために人員増がなされたり、貿易のノウハウが蓄積され効率的な輸入が可能となり原価を抑えて価格競争力を増すなどのケースが考えられる。
■海外投資が国内事業に負の影響を与えることも
ただし、この雇用拡大効果がみられた設問の調査対象は「直接投資を5年間継続している企業」であり、海外投資が比較的うまくいったケースが母集団であることにも留意する必要がある。
国の見方も分かれており、2012年版ものづくり白書では、「海外設備投資の増加は国内従業員数・設備投資の増加に結びつきにくくなっており、今後、企業利益と国益とが相克する事態も懸念される」として、海外投資が国内事業に負の影響をもたらす恐れが強まっていると指摘している。
■長期的な経営戦略を踏まえた総合的判断が必要
海外展開にあたっては、進出先の規制や障害等により国内に利益を資金還流させることが困難なケースや、現地人件費の上昇、人材確保難、産業インフラや物流の未整備など、様々な課題やリスクの検討および対応が必要となる。
中小企業の海外展開はたしかに大きなチャンスにつながりうるが、リスクや課題についても慎重に分析し、長期的な経営戦略を踏まえた総合的な判断をすることが求められよう。(吉村謙一)