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再エネ普及のカギを握る「風力発電」をめぐる動き(2013年4月)
研究員 吉村 謙一
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■新規予算「送電網の整備」とは?

政府の2013年度予算案で、経済産業省が要求した「北海道における送電網の整備」が250億円満額で盛り込まれた。従来はなかった予算で、同省が新規に要求した中では最大規模のものだが、この予算は一体何を意味するのか。


■太陽光・風力等の再エネは現在1.4%のみ

現在わが国の電源構成において再生可能エネルギー(以下、再エネ)が占める割合は約10%(2011年)。そのうち約9%分は大型ダムを中心とする水力発電で賄われ、太陽光や風力、バイオマス、地熱等は合計で約1.4%しかない。

燃料価格の高騰や原発の長期停止という事態を受け、政府はエネルギー戦略の練り直しを現在進めているが、電源構成に占める再エネの比率を今後大きく引き上げる必要があることは衆目の一致するところだ。その目標達成インセンティブの一つとして昨年7月に固定価格買取制度が導入されたが、買取価格が高い太陽光に導入が偏るなどの問題が起きたことは記憶に新しい。


■再エネ普及のカギを握る風力発電

このように日本では再エネというと太陽光が注目されがちだが、再エネ先進地域のヨーロッパでは風力が主力である。各国の再エネ発電量に占める風力の比率をみると、デンマークが7割、スペインが5割、ドイツが4割となっている。

日本での発電コストも、実は太陽光(1kWhあたり約40円)よりも風力(小規模は約20円、大規模は約10円)のほうが低く、火力や原子力(約10円)並みの低コストを実現している。

こうしたコスト競争力と、1か所あたりの年間発電量が数億~数十億kWhとまとまった量の電力が得られることから、世界的に風力発電が今後の再エネ普及のカギを握ると考えられている。


■日本で風力発電が普及してこなかった理由

わが国では、強い風が安定して吹き大規模な土地確保も可能な風力発電適地が、北海道や東北の沿岸部に限られる。だがそれらの地域での電力需要は少なく、大規模な発電電力を受け入れる容量のある送電網が整備されていない。そこで冒頭の予算の話となる。この送電網整備は、風力発電のさらなる普及に向けた実証事業なのである。


■送電網整備の5兆円は高いか?

この北海道・東北の風力発電電力を最大の電力消費地である首都圏に届けようという構想もある。大容量・長距離の安定的送電を可能とするこの送電網整備には、5兆円の費用と10年の期間がかかるという試算がなされている。

途方もない額にも見えるが、一度送電網を整備することでわが国の風力発電増強における大きな障害が取り除かれ、一昨年の原発事故以降の火力発電用燃料費増大を大きな原因とする数兆円単位の貿易赤字の縮小にもつながりうることから、この投資の経済合理性は十分あるとも考えられる。


■エネルギー安全保障面からも再エネ拡大が必要

シェールガス革命によって近い将来エネルギー自給が実現する見込みのアメリカが、化石燃料の主力供給地である中東の安全保障への関与を低める可能性がある中、ホルムズ海峡周辺で不測の事態が起きればわが国の燃料調達に多大な支障が生じることは必至だ。東日本大震災前に約6割だったわが国の火力発電比率は現在9割にまで高まっており、エネルギー安全保障の観点からも非常に危険な事態であると言わざるを得ない。

リスク管理の基本である分散調達を実現するためにも、電源としての再エネという選択肢をより拡大していかねばならない。今後もこの風力発電普及をめぐる動きに注目したい。 (吉村謙一)