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■国民経済計算でみる国民の正味資産(国富)
内閣府が発表している国民経済計算という統計データがある。国民経済計算は、我が国経済の全体像を国際比較可能な形で体系的にまとめたもので、非金融法人企業(民間企業、公的企業等)、一般政府(中央政府、地公体等)、家計(一般家計等)などの総和で表示され、内閣府から公表されている。
国民の貸借対照表が図表1である。資産、負債、正味資産で表され、基本項目は企業会計と同じであるが、勘定科目は以下のように若干違う。
資産は非金融資産と金融資産に分かれ、非金融資産は「生産資産(在庫や固定資産)、有形非生産資産(土地等)」を表示し、金融資産は「現金・預金、貸出、株式以外の証券、株式・出資金、金融派生商品」などが表示される。また負債には「借入、株式以外の証券、株式・出資金、金融派生商品」などが表示される。では、日本国民の貸借対照表を2002年から2011年までの10年間の推移で追ってみる。
2002年の正味資産は3,038兆円。その後、2011年の正味資産は2,996兆円。この間、サブプライム問題やリーマン・ショックが起きているにもかかわらず、正味資産は、ほぼ横ばいで推移している。
図表1を見る限り、安定した業績を上げる企業のように正味資産は、一定のレベルを保ち続けている。
しかし、我々個人の正味資産が潤っているとういう実感はなく、また生活が楽になっているという実感もない。「国民」と名がつくものの、どうも正味資産の数字がしっくりこないのはなぜか?
それは、国民の貸借対照表の正味資産には、民間企業の純資産も含まれているからである。内部留保の厚い企業は、広く国民が豊かになるように経済を循環させることも必要ではないだろうか。
■一般政府の正味資産
ニュース等で「このままだと日本は破綻する」という報道を耳にすることがある。これは、国民経済計算のうち一般政府の正味資産に注目した報道である。一般政府の貸借対照表は図表2の通り。
特に変化の度合いが激しいのは、負債と正味資産だ。期末資産は、ほぼ横ばいであるが、負債は、2010年には1,000兆円の大台を超え、正味資産は安定どころか、この10年間に激減し2011年には、△19兆円まで落込み、債務超過の状態である。
リーマン・ショックによる景気減退の影響を大きく受けた感じで、この正味資産のほうが、生活実感に近いのではないだろうか。(橋本公秀)