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行動経済学にみる人間の心理的行動 (2013年9月)
主席研究員 丸尾 尚史
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■行動経済学

実際の人間による実験やその観察を重視して、人間がどのように選択・行動し、その結果どうなるかを究明することを目的とした経済学を「行動経済学」といい近年注目されている。本稿では、行動経済学にみる人間の心理的行動について考える。

今、以下のようなQ1、Q2の2つの設問とそれに対する2つの回答選択肢がある。

Q1: あなたは以下の(1)か(2)のどちらかを選ばなければならない。
  (1)2万円を確実にもらえる
  (2)50%の確率で4万円もらえるが、50%の確率で何ももらえない。
Q2: あなたは以下の(1)か(2)のどちらかを選ばなければならない。
  (1)2万円を確実に失う
  (2)50%の確率で4万円失うが、50%の確率で何も失わない。

上記Q1とQ2のどちらも、選択肢(1)と(2)で期待値(※)は変わらない。しかし、あるアンケート調査では、Q1では(1)の「確実に2万円もらえる」のほうが、Q2では(2)の「50%の確率で4万円失うが、50%の確率で何も失わない」のほうがより多くの回答を得たという結果が出ている。
(※)期待値(試行の結果として得られる数値の平均値):(1)2万円×100%=2万円、(2)4万円×50%+0円×50%=2万円


■プロスペクト理論における価値関数

リスクを伴う場合に人間はどのような意思決定をするのかを説明した理論を「プロスペクト理論」という。人間は得をする場面ではリスクを回避しようとし、損をする場面ではリスクを大きく取ってしまう(あえて危険に挑む)傾向がある。右図表は「プロスペクト理論の価値関数」と呼ばれ、縦軸に満足度を、横軸に利得と損失を取っている。今、ある商品の価格を±100円分だけ変化させると、原点からの変化量はどちらも同じであるにもかかわらず、100円値下げした場合に「得をしたと感じる満足度」よりも、100円値上げした場合に「損をしたと感じる不満足度」が2倍程度大きくなっていることがわかる。

前述のアンケートで、期待値は同じ2万円であるのになぜ異なった結果となるのか。Q1(得をする場面)では、「利得(お金)が手に入らないというリスク」の回避を優先しようとするが、Q2(損をする場面)では、お金は失いたくないから「損失そのもの」を回避しようとするからである。


図2

■消費者行動に照らし合わせると

小売業界などでは、頻繁に特売やセールが行われている。特売等で値下げをすることは消費者に好影響を与える(満足度が高まる)。しかし、後に通常価格に戻した(値下げ分と同額だけ値上げした)場合、これまでに高まっていた満足度以上の不満足度が発生する。消費者はリスクを取り、次のセールまで購入を手控える行動を取るから、通常価格での販売機会や販売額は減少。結果的に売上の減少という悪い影響を及ぼしかねない。このことから、短絡的な値下げは必ずしも効果的な施策となるわけではないと思われる。(丸尾尚史)