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■松竹梅効果(極端の回避性)
コース料理などで、3段階に設定された価格を見かけることがよくある。これは、「松竹梅効果」(極端の回避性)と呼ばれる消費者の心理を利用したマーケティング戦略である。
ある実験結果によると、価格がAとBの2種類の場合、両者の売上割合はAとBがほぼ互角となるが、1つ付け加えてA(松)・B(竹)・C(梅)の3段階にすると、真ん中のBが6割、残りのAとCが2割ずつというように変化した。この現象はなぜ起こったのか。人間は、見栄や世間体といった感情が無意識に働く。そのため、一番低い価格ではなんとなく世間体が悪いと考えてしまう。逆に、一番高い価格は手が出ないうえに、もったいないという感情が芽生え、その結果、多くの人が真ん中の「竹」の価格に落ち着くのである。さらにプレミアム商品を投入し、売れ筋をBからAへ移行させ、平均購入単価のアップを狙う方法もあり、最近、メーカー各社での新商品投入が増加している。
このように、真ん中の商品を多く売りたい場合には、その上下に別の価格を設定することがこれまでの常套手段であった。
■高価格と低価格に注目
確かに「松竹梅効果」は定石ではあるが、今や時代の流れとともに、すべてにあてはまるとはいえなくなってきている。例えば、「極端に高い金額」の商品は、その商品が持つ高付加価値ゆえに話題性を生み、マスメディア等で取り上げられ、さらにSNSなどによっても広まる。また「高級だからこそ売れる」という商品も実際にある。
例えば、兵庫県のハンガーを製造する企業では、1万円以上する木製のハンガーを作っている。この高級ハンガーを目の当たりにしたときに、「誰が使うのか?いったいどういう服をかけるのか?」などと想像が大きく膨らむ。これだけでも有効な宣伝効果があると思われる。
一方で、ファーストフードや通信販売では、低価格の商品が売れ筋になっていることが多い。そのため、「松竹梅効果」を狙い、売れ筋商品よりも高い「松」と「竹」にあたる商品をラインナップすることは、一見すると売上増に有効であるかのように思われる。しかしこの場合、3段階の価格設定が良いとは限らない。なぜなら、ファーストフード等では、多くの人が低価格の商品を選択することもあって、前述したような、見栄や世間体が悪いという感情は、消費者にさほど生じないからだ。反対に、ワンランク上の商品を仮に選んだ場合には、その分出費額が増え、そのことが原因で購入回数が減ってしまうこともあり得る。
売上は「1人あたりの消費単価と購入点数(購入回数)の積」であるから、1回あたりの単価が上がっても回数が少なくなれば、結果的に売り上げがダウンすることになる。つまり、この状況においては3段階の価格設定は効果的に機能するとはいえず、むしろ、価格の安さを訴求して来店回数を増やすことによって売上の増加を図る方が、より有効な方法になるだろう。
■まとめ真ん中の価格の商品を売るために、その上下の価格の商品を作る「松竹梅効果」は、これまでマーケティングの戦略として有効に機能してきた。しかし昨今、消費者志向の多様化やインターネットの普及等に伴い、こうした手法が万能とは必ずしも言えなくなってきているのではないだろうか。 (丸尾尚史)