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■質問方法によって結果が大きく異なることもある
当研究所が実施した2007年の調査によると、奈良県は「活気がない」が35.1%、「変化を嫌う」が20.1%という結果であった。一方、2010年の調査によると、「活気がない」が72.3%、「変化を嫌う傾向がある」が70.5%という結果であった。二つの調査結果には大きな乖離がみられるが、その大きな要因は質問方法が異なるということだ。
前者は「次の18項目から奈良県のマイナスイメージに近いもの【主なもの5つ以内】を選択」という多肢選択・複数回答であるため、回答が分散して比率が低くなりがち。後者は「次の15項目について、あなたの認識に近いものを選択」という単数回答を採用。項目毎に該当の有無を考えるため、より適正な回答結果を把握しやすい。
別の事例を紹介すると、観光振興のあり方に関する質問では、県民の約6割が「観光振興にもっと力を入れていくべき」と回答。経済の活性化等のために育成すべき産業に関する質問では、第1位が「医療、健康、介護等のサービス産業」45.3%で、次いで「観光産業」「地場産業」「環境・新エネルギー等の新産業」の3分野が40%超で続く。
二つの質問は、共に2010年調査で多肢選択・複数回答(3つ以内)。前者だけを見ると、奈良県では「観光振興が重要」という結論になるが、後者のように幅広い産業分野で聞くと、県民はバランスのとれた産業育成を期待していることがわかる。
■アンケートは、ある程度作為的に設計されている
民間企業や行政などが行う意識調査などは、通常、特定の結論を期待して、ある程度作為的に設計・実施されていることが多い。悪意は無いだろうが、普段から一定の方向を向いて仕事をしていると、自然と思考がそちらの方向に偏りがちだ。
例えば、(1)選んで欲しい選択肢を上位・一番に記載する、(2)選んで欲しくない選択肢を下位に記載する、(3)プラスイメージだけを聞く、(4)設問の順番や説明文で特定の先入観を持つように誘導するなど、意図の有る無しに関わらず、色んなことが調査票の設計時に反映されていることがある。
また、意図せざる結果が出た場合、不都合な内容の発表を見送ったり(一部を割愛したり)、分析を簡易なものに止めたりするなど、発表者側である程度の加工・編集が行われていることもある。
調査結果を見る際には、(1)調査主体は同結果と直接的な利害関係がないか(中立的立場か、委託先から金銭を受領していないか)、(2)調査票が公開されているか、(3)プラス面だけでなく、マイナス面(不都合な事)も調査しているか、(4)質問方法が適切か、(5)選択肢が適切か(漏れが無いか)、(6)回答者は適切か(年代等の偏りがないか)などの確認が必要だ。アンケート結果を見る際は、健全なる批判精神を大切にしたい。(島田清彦)