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■盛況のうちに幕を閉じたソチ冬季オリンピック
今年2月~3月にロシアで開催されたソチ冬季オリンピック・パラリンピックは、奈良県出身のスノーボード男子ハーフパイプ・平岡卓選手が銅メダルを獲得して本県初の冬季オリンピックメダリストとなるなど、多くの話題と感動を残し盛況のうちに幕を閉じた
昨年9月には2020年夏季オリンピックの東京開催も決定し、その経済効果も含めわが国でも期待が高まっている。
■2020年東京オリンピックの経済効果
東京都が公表した試算によると、2020年東京オリンピック開催に伴う経済効果(生産誘発額)は2013年~2020年において全国で約2兆9,600億円(東京都で約1兆6,700億円、その他の地域で約1兆2,900億円)。雇用誘発数は同じく全国で約152,000人(東京都で約84,000人、その他の地域で約68,000人)となっている。
一方で、投資や公共工事による景気拡大効果は一時的なもので、オリンピック開催の費用は無駄遣いだと主張する人々もいる。実際のところ、巨大な投資に見合う経済効果が計算通り得られるかどうかについては経済学者の間でも意見は分かれており、とくにスポーツ関連施設への過剰投資は中長期的に見ると財政の足かせになる可能性が高いと言われることが多い。
このように賛否両論様々な見方のあるオリンピックの経済効果だが、実際にオリンピックを開催せずとも開催地招致レースに立候補するだけで一定の経済効果が発生するという意外な研究結果もある。
■「オリンピック効果」
米カリフォルニア大学バークレー校のアンドリュー・ローズ教授とサンフランシスコ連邦準備銀行のマーク・スピーゲル氏が発表した「Olympic Effect(オリンピック効果)」と題する論文によると、過去のデータを詳細に検証した結果、オリンピック開催国では長期的に見て輸出が20%以上伸びており、これには統計的に確固たる裏付けもあるという。
また興味深いことに、オリンピック招致を目指して立候補し落選した国にも、実際の開催国と同様に輸出増の効果が現れたというのだ。
■開催国・立候補国が輸出増となる理由
なぜこうした効果が現れたのか。両氏の解釈は、オリンピック招致に立候補することが、開催国として認められるために貿易自由化や様々な規制緩和に本気で取り組むことを国際社会に対して約束する「シグナリング」(経済学用語で情報を持たない側に対し情報を開示するような行動をとること)として機能するからではないかというものだ。
オリンピックのような大規模イベントを実際に開催するという行為そのものよりも、むしろその国家が国際社会に送るこうしたシグナリングを見て、各国の企業や投資家が安心してその国に投資を行い、結果として輸出増に結びつくという構図である。
またこうした輸出増の効果は、オリンピックだけではなくワールドカップや万国博覧会のような大規模イベントでも同様に確認されたという。
■社会構造改革と国際投資呼び込みの好機
これが事実であるならば、わが国においても、2020年東京大会に向けてそのシグナリング効果を再認識し、オリンピック招致を契機とする規制緩和、効率的なインフラ整備および改修等に取り組んで、社会構造改革と海外からの直接投資呼び込みの両面でオリンピックを積極利用していくことが一挙両得の策であるといえよう。(吉村謙一)