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■居宅サービスの拡がり
介護保険制度は、高齢者(65歳以上の者)等を家族だけでなく社会全体で支えるという理念のもと2000年4月から実施された。その後、高齢化率が2010年に23%を超え、「超高齢社会(国連基準)」に突入し、高齢者数は増加の一途をたどっている。
その結果、国は、介護にかかる費用を抑制しつつ介護サービスの提供を持続していくために、増加する高齢者のケアの場を「医療から介護へ」あるいは「施設から在宅へ」との流れに方向転換しつつある。
介護保険制度ができた理由の一つに、365日、先の見えない介護を続ける介護者(家族など被介護者を世話する人)をリフレッシュさせることがある。その中心となるサービスが、レスパイトケア(お預かり)で、介護者を介護の負担から解放し、また介護者が感じるストレスと疲労を緩和させ、介護者自身の時間を持てるようにする役割を持つ。
さらに介護者が別の用事をしたり、旅行に出かけられるように、また被介護者も他の人々との出会いの場が増え、社会活動を楽しむ機会を持てるようにサポートする。このようにレスパイトケアは、介護者と被介護者の両者をサポートするサービスで、主に居宅サービスの「通所介護(デイサービス)」、「短期入所生活介護(ショートステイ)」、「特定施設入居者生活介護」において実施される。
■気になる2015年度の介護保険制度の改正来年度の介護保険制度の改正では、介護者の負担を軽減するだけのレスパイトケアに対するサービス報酬は低く評価し、専門性の高い機能(機能訓練等)を実施するサービス報酬を高く評価する内容に変わりそうである。また施設サービスは、要介護度が重い高齢者等(要介護度3以上)に限定し、要介護度2以下の高齢者等は、原則、利用できなくなる予定である。ますます膨らむ給付費用を抑制し、介護保険制度を持続していくという課題を考えれば、仕方がないことかもしれない。
しかし、この改正には、疑問を感じる。これでは、居宅サービスを利用する高齢者が増える。居宅サービス側の受入にも限界があり、利用したい時に利用できない高齢者が増え、利用できなければ自宅に戻らざるを得ない。もちろん自活できれば問題ないが、何らかの理由により、施設サービスを利用していた高齢者を家族が介護することになる。はたして家族が介護できるのだろうか?
昔の大家族のような環境なら、多くの人が交代で介護できたが、今は核家族化が進み、落ち着いて介護できるような環境ではない。四六時中、特定の者が介護し続けるのは、そもそも無理な話である。
これからは誰もが介護を経験する可能性がある。特に介護期間が長いと被介護者は、加齢による衰えが顕著となり見守る時間は増える。「老々介護」等の状態が続くと介護者のストレスは計り知れない。その緩衝剤の役割を果たしているのが、居宅サービスが実施するレスパイトケアである。レスパイトケアの評価を低くするのはいかがなものかと思う。
また介護保険制度の給付面に限界があり、近隣地域でのつながりをもっと強くできる体制を市町村レベルで構築し、地域でレスパイトケアを実践できる体制づくりも必要である。 (橋本公秀)