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「県外就業率・全国1位」は、奈良県の強みとも言える!(2015年2月)
主席研究員 島田 清彦
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■「県外就業率・全国1位」は、奈良県の弱み?

2010年の総務省「国勢調査」によると、奈良県に常住している就業者数は約60万人(05年比6.0%減)で、うち17万人が県外で就業している。県外就業率は28.4%で全国1位。性別でみると、男性約12万人〔3人に1人:県外就業率35.0%〕、女性約5万人〔5人に1人:同19.3%〕が県外で就業している。

県外就業率の高さについて、「雇用や消費が県外に流出し、奈良県の弱み」と捉える見方もあるが、同率全国1位は決して恥ずべきことではない。むしろ県民所得の維持・増大という観点からすれば、奈良県の強みとも言えるのではないか。


■県外就業率の高さが税収アップに貢献

満員電車に揺られながら長い通勤時間をかけて、賃金水準や労働生産性の高い県外に出向いて働き、高い所得・税収を奈良県に還元してくれている意義・貢献を認める必要がある。

2012年の奈良県企業の賃金水準(事業所規模5人以上の従業員1人当たり平均の現金給与総額:262千円)は全国39位、関西2府4県で最下位〔全国314千円〕。隣接する大阪府の賃金水準は336千円(全国2位)で奈良県より28.1%高く、雇用環境面で奈良県は劣勢だ。2014年地域別最低賃金時間額をみても、奈良県の724円に対して大阪府は838円となっている。ただ、この賃金格差と県外就業率の高さにより、奈良県の個人住民税の水準が高くなっている。

総務省「地方税収等の状況」により2012年度の人口1人当たり地方税収額の奈良県の水準をみると、全国平均を100とした場合、大企業等の少なさから地方法人二税は43.5(全国最下位)と低いが、県外就業率の高さなどから個人住民税は95.7であり、大阪府95.6や京都府95.7と同水準を確保している。


■大きく落ち込む奈良県の1人当たり県民所得

2011年度の1人当たり県民所得は2,388千円で01年度比14.7%減少(国民所得は5.8%減)。特に県民所得の減少(就業者の減少等)や労働生産性の低下(大企業の工場撤退・縮小等)が、1人当たり県民所得の減少に大きく影響している。実際、2010年の県外就業者数は、05年比で男性が15千人減少(11.2%減)、女性が3千人減少(5.8%減)した。

1人当たり県民所得は、全国を100とした水準で見ると、2001年度の奈良県は97.2とほぼ全国並みであったが、2011年度は88.0と約9ポイント低下しており、奈良県の稼ぐ力の弱体化は明確である。


■「一人当たり県民所得」の最大化を目指すべき

労働力人口(就業者及び完全失業者)の減少により県内総生産の減少が懸念される。男女別5歳階級毎の労働力率が2010年の水準から変化しないと仮定すると、2035年の労働力人口は約18万人減少(10年比28.5%減)して約46万人になると予想される。また、県外就業率の高止まりが続くと考えられるため、県内企業は人材の確保が困難になると懸念される。奈良県はいかに対処していくべきだろうか。

奈良県内への企業立地を促進する場合、補助金支出や税金軽減が必要になるが、大阪府等に隣接しているおかげで、奈良県は県外において優良な雇用の場を無償で確保・活用できているとも言える。

大きな賃金格差が存在する限り、県内就業を促進するよりも、県外へ働きに行く元気のある人には、県外で働いて高い賃金を稼いでもらう方が、奈良県経済全体ではプラスになるのではないか。

奈良県経済の活性化、県民の生活水準の維持を図っていくためには、究極的には1人当たり県民所得の最大化(維持・増大)を目指すべきであり、合成の誤謬に陥らぬよう注意が必要だ。(島田清彦)