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あまり知られていない「孤立無業者(スネップ)」の深刻化(2015年3月)
上席主任研究員 橋本 公秀
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■深刻な社会問題となりつつある「スネップ」

あまり聞きなれない言葉かもしれないが、「スネップ」をご存じだろうか?

スネップとは東京大学社会科学研究所の玄田有史教授が提唱し「20~59歳の在学中を除く未婚者で、ふだんの就業状態が無業のうち、一緒にいた人が家族以外に連続2日間以上いなかった人々(孤立無業者(SNEP)の現状と課題)」と定義している。

スネップは、無業であることに加え、人間関係の貧しさという状況におかれた「孤立」が問題視される。「そんな人は、昔からいる」と思われる方もいるだろうが、2011年時点で推定162万人と言われ、年々増加しているその数の多さが、深刻な社会問題となりつつある。


図1

■もはや他人ごとではない「スネップ」

この問題、怠惰な人の自己責任だと思うのは、大きな間違いである。スネップという言葉には、一言では言い表せない、さまざまな社会的な問題が含まれている。

現在、普通に働いて生活している人でも、(1)会社の業績悪化により解雇された、(2)心身のどちらかが病気になった、(3)親が病気になって介護が必要になり、自分しか介護できる人間がいないため、離職を余儀なくされた、(4)結婚できずに年を重ねてしまった等、このような状況がいくつか重なるだけで、あっという間にスネップに陥る可能性があり、他人事や無関心で済まされる問題ではない。

さらに、先述の玄田教授の分析によれば、20~59歳の未婚の無業者(学生を除く)の中で、どんな人が孤立しやすいのかというと、男女別では女性よりも男性のほうが、また年齢別では20代よりも30代以降のほうが、孤立しやすいという結果が出ている。

女性の場合、地域に相談する相手がいるケースが多く、比較的孤立とは縁遠いようであるが、男性の場合は、地域に相談する相手がほとんど無く、社会的に孤立する可能性が高い。

また、自宅で要介護の家族を抱えている人ほど、孤立しやすいとも言われる。病状により、介護負担の度合いはさまざまであるが、親の介護は、転職が難しくなる40歳代後半から始まるケースが比較的多い。介護のために離職を余儀なくされ、介護にのみ専念し、まったく社会と関わりがなくなり、気が付けば「スネップ状態」になっていたということは誰にでも起こりうる話だ。

スネップを家族と一緒に過ごす時間がある「家族型孤立無業」と、家族とさえ一緒に過ごす時間がない「1人型無業」とに区別すると「家族型孤立無業」がスネップ全体の8割を占め、年々増加しており、家族に要介護者がいる人ほど注意が必要である。

今後、少子・高齢化によって、労働力人口の減少が予想される中、スネップの増加は、働き手をさらに減少させ、かつ税収減につながる一方で、社会保障費の支出が増加するという社会保障政策の悪循環に拍車をかける。

この負のスパイラルに歯止めをかけるためにも、「地域包括ケアシステム」等を活用し、要介護・要支援者を支えるだけでなく、孤立している人も社会復帰や就業などに挑戦しようとする気力を取り戻せる社会インフラの整備が望まれる。