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■ビッグデータによる訪日外国人の移動実態調査
2014年の訪日外国人数は1,341万人と過去最高を記録し、消費額も2兆円に達した。大きな経済効果をもたらすこの訪日外国人の移動実態について、国土交通省近畿地方整備局がスマホのGPS機能から得たビッグデータを活用した詳細な調査を実施し、今年6月にその結果を公表した。
調査の詳細は図の注記の通りで、実際の訪日外国人の国籍内訳と本調査の内訳は若干異なるが、結果は、調査対象者4,873人のうち7割以上が京都、大阪両府のみの滞在にとどまり、奈良を訪れたのは625人と約13%だった。そして奈良県内での訪日外国人滞在先は図の通り奈良市中心部に集中し、法隆寺や明日香村等への回遊がほとんど見られなかった。また19時以降の滞在者数は日中の2割にとどまり、県外へ流出する夜間観光客の獲得にも課題を残す結果となった。
いずれもこれまでヒアリングやアンケート調査等で指摘されていた事項ではあるが、今回、実際の滞在場所をGPSで追跡するという客観データで改めてその問題点が裏付けられた形である。
■訪日外国人の誘客・回遊性向上に向けて
今回の調査も踏まえ、訪日外国人の誘客および回遊性を高めるための視点をいくつか考えたい。
国土交通省によると、訪日外国人の7割以上が個人旅行(個人でコースや日程、宿泊施設を自由に決めて行う旅行)の客だという。個人の嗜好の多様化や訪日旅行リピーターの増加を背景に、今後訪日外国人の個人旅行化はますます加速することが見込まれる。したがって個人旅行客の実態とニーズをつかむことが今後の観光振興には欠かせず、今回の調査は非常に重要な基礎資料である。
訪日旅行リピーターの増加に伴い訪日外国人は新しい旅行先を探している。旅慣れた外国人の間では「日本の原風景を体験できる地方の日常をめぐりたい」というニーズも高く、GPS移動実態と照らし合わせながら、奈良市中心部以外への効果的な誘客ルートの検討およびPRを進めたい。
ビッグデータ等のICT(情報通信技術)利活用の重要性は今後もますます高まる。移動実態分析を基に訪日外国人の移動の制約となっている交通環境を分析し整備して回遊性を高めることや、ツイッター等のSNSでの訪日外国人の満足、不満等の発言をビッグデータ解析して移動実態と照らし合わせ、個別地域ごとの改善策や観光戦略を練ることも技術的には可能だ。
訪日外国人の不安、不満、不便を解消し、徹底的にニーズに寄り添うことがインバウンド観光振興の基本である。そのためには、これまで積み重ねてきた経験に基づく推論と、今回発表されたような精度の高い客観データを組み合わせる、多角的な情報分析能力が求められよう。(吉村謙一)