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「ROA」を高めながら「ROE」を高めることが健全な姿(2015年11月)
上席主任研究員 橋本 公秀
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■経営指標の中で注目される「ROE」

最近、新聞紙上でよく見かける「ROEを重視した経営」。ROE(自己資本利益率)とは「Return On Equity」の略で、株主が会社に預けているお金を使って、どれだけリターン(利益)を稼いでいるかを見る指標で、次の式で計算できる。

ROE=当期純利益/自己資本(≒株主資本)

このROEの数値が高い企業は「株主から預かったお金を使って効率よく利益を稼いでいる企業」といわれる。特に株主は、経営指標の中でもROEを重視している。なぜならROEを見れば将来の株主還元(配当)などを予想できるからである。

それではROEが低い企業はどうか。株主から預かっている資金に対するリターンが低いわけだから、ROEが高い企業に比べて株価が低迷しがちになる。また株価が低迷する企業は、時価総額が低くなるので、他の企業やファンドなどから買収されやすくなる。そのため、上場企業はROEを無視することができない。


■「ROE」が高ければ優良企業?

ところでROEが高い企業は、必ず優良企業なのだろうか。一般的にはその通りであるが、一般論が全てではない。ROEの計算式を見てほしい。ROEを高めるには(1)分子の当期純利益を上げる、(2)分母である自己資本を下げる、のいずれかの方法がある。当期純利益を上げてROEを高めることが理想的な企業の姿であるが、自己資本を下げて、ROEを高めることもできる。

よく行われるのが自社株買いだ。自社株買いをすると自己資本はその分だけ減り、それによってROEが高まる。また自社株が将来的に消却されると、発行株数が減ることになり、1株あたりの純利益は増える。1株あたりの純利益は配当の源泉なので、それが高いと当然株価は上がりやすくなる。そのため自社株買いは投資家から見れば、配当が多くなる可能性を示唆し、保有意欲を高める。また企業にとってもROEが高まることにより、株価が上がり、時価総額が増えることにつながる。そのため、多くの企業が自社株買いを行うわけだ。しかし、手っ取り早くROEを高めようとして自社株買いをやりすぎると、純資産が減ることになり、企業の安全性を示す自己資本比率が低下することになる。


■企業経営上、まず「ROA」を高める

ROEの計算式をROA(総資産利益率)を加味した数式に分解すると以下の通り。

ROE=ROA×財務レバレッジ※ (※自己資本比率の逆数)
ROA(総資産利益率)   =売上高利益率×総資産回転率

上記の式からROEを高めるには、(1)ROAを高める、(2)財務レバレッジを高める、の二つの方法が考えられる。まず(2)の財務レバレッジを高めるとROEは高くなるが、財務レバレッジは自己資本比率の逆数であるため、安全性の低い企業となる。

安全性を犠牲にしてまでROEを高めることは、企業経営上、健全な姿ではない。優先順位としては、(1)のROA(資産に対する利益の割合)を高めることによって、ROEを高める方が企業経営上、健全と言える。

特に株価の市場性がほとんどない中小企業では、中長期的な安全性を高めるために、自己資本を厚くし自己資本比率を高めることを優先すべきである。

また本業で売上を伸ばし利益を追求しながら、売掛金回収の徹底、無駄な在庫は処分する、遊休不動産は売却する等、個々の資産が適正なのか常に見直しを行い、資産を有効に活用することが重要である。そのため経営者は、ROAを高めながらROEを高めるという考え方が必要である。(橋本公秀)