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人口減少社会に突入したわが国では、生き残りのために地域経済の活性化が喫緊の課題となっている。インバウンドが好調な今、多くの産業と深く関連する「観光」は、その活性化策のひとつと位置づけられ、観光によって経済波及効果を高めることが地域の活性化に有効な方策とされる。
それでは、どうすれば経済波及効果を高めることができるのか。経済波及効果は、ある産業の生産額や価格(単価)に変化が生じたとき、産業間の取引を通じて他の産業の生産額や価格(単価)に影響を及ぼす効果のことをいう。観光の場合、「観光客数」「消費単価」「域内調達率」が経済波及効果に影響を及ぼす要因となり、経済波及効果の大きさは、これら3つの要因の掛け算がベースとなり決定される。
「観光客数」と「消費単価」に関しては、一般的に消費単価は観光客の滞在時間に比例するから、「できるだけ滞在時間が長い旅行形態(※)の観光客数を増やすこと」「滞在時間が長い旅行形態へシフトさせること」の2つが経済波及効果の増加に効果がある。
※旅行形態は「日帰り」「県外宿泊者の県内日帰り」「県内宿泊」の3種類あり、この順に滞在時間は長くなる傾向がある。
宿泊者数が全国下位の奈良県では、奈良市内への最高級ホテルの誘致決定や外国人観光客交流館「猿沢イン」の今夏からの宿泊開始など明るい話題もあり、今後宿泊客の増加に期待がかかるが、宿泊に関し押さえておきたいことは、必ずしも「日帰り=近隣地、宿泊=遠隔地」とはならないということである。なぜなら、宿泊施設自体に訪れる魅力がある場合や夜間・早朝のイベントなど「宿泊しなければ得られないサービス」がある場合は、自宅から近い日帰り圏であっても宿泊のニーズが考えられるからだ。近くに日帰り圏の大都市がある奈良県は、近隣地からの宿泊観光を新しいターゲットとすることもできるのではないか。
したがってシフトの方法は、外国人の場合は「県外宿泊者の県内日帰り」から「県内宿泊」へ、日本人の場合は上記に加え「日帰り」から「県内宿泊」へも含まれる。
「域内調達率」に関しては、消費額の地域外への流出をできるだけ抑えることである。それは一朝一夕にできることではないが、地域の特性や産業等によって調達率が異なることをうまく利用し、域内調達率の高い商品の製造・販売やサービスの提供を増やすことは可能であろう。道の駅や直売所で販売される地元の農産物等はその最たる例。「品物の安定的な供給」や「価格面、品質面において顧客の満足を得る物の提供」といった課題も想定されるが、地元産品を積極的に扱うことで、経済波及効果を高めていきたい。
全国で地方創生に向けた取り組みが4月より本格的に始まり、観光をその柱のひとつに据える地域も少なくない。今後、市場においてパイの奪い合いが予想されるなか、地域の特色を生かした数々の施策がどういった経済波及効果を生み出すのか、その点に注目していきたい。(丸尾尚史)