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■男女とも9割以上が生活水準は「中流」と認識
1960年代に池田内閣により推し進められた「所得倍増計画」により、どの家庭も一律に生活水準の向上が図られた。1968年には日本の国民総生産(GDP)が世界第2位に達し、国民の多くが「1億総中流」社会を享受した。当時の社会では、新・三種の神器(カラーテレビ、クーラー、自動車)が普及した時代でもあった。
現代においても、この1億総中流の意識はまだ崩れていない。2014年6月に実施された「国民生活に関する世論調査」(内閣府)では、男女とも9割以上が自分の生活水準は「中流」だと認識している。
■非正規雇用の割合が4割超
高度経済成長が続いた1980年代、日本における非正規雇用の割合は20%台であったが、1990年代に入り大きく増加した。バブル経済の崩壊によりデフレ経済が発生、企業は正社員をリストラし、低賃金のパートや派遣労働に置き換える動きが強まったことが主因である。
その後パートや派遣で働く非正規雇用の割合は年々増え、厚生労働省が2015年11月に発表した「就業形態調査」によると、民間事業者に勤める労働者のうち非正社員の占める割合が40.0%に達し、初めて4割を超えた。
■危惧されるワーキングプアの拡大
さらに厚生労働省の国民生活基礎調査によると、世帯あたりの平均所得額は1996年の664万円をピークにずっと減り続け、2013年には年間所得はおよそ140万円も減り、約529万円まで低下した。
また1993年には全世帯の3分の1ほどだった400万円未満の世帯が、2013年には5割近くまで増加している。2013年以降もこうした傾向は変わらない。働けば働くほど給料が増えた高度経済成長時代と比べると驚くほどの変化である。
所得が減り続けているのは、非正規雇用の増加により就業形態が変化したことが要因である。非正規の社員の平均賃金は正社員の約6割。雇用は不安定で能力開発機会が乏しく、健康保険や雇用保険、また老後の生活資金となる厚生年金などのセーフティネットの適用も不十分である。このままではワーキングプアの拡大につながることも危惧される。
■見え隠れする「1億総下流」社会
このような状況が続く限り生活水準はもはや「中流」ではない。「1億総中流」社会の時代は幻想になりつつある。
安倍首相は1月の施政方針演説で「非正規雇用の均衡待遇の確保」に取り組む考えを表明。短時間労働者の被用者保険の適用拡大や同一労働同一賃金の実現などにも言及している。また自民党の参院選公約には「1億とおりの輝き方を支援します」とある。
政府は危機感を持って施政方針や公約を実現させなければ「1億総下流」社会が現実のものとなる恐れがある。(橋本公秀)