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今年4月、経済産業省の産業構造審議会は「新産業構造ビジョン」の中間整理を発表した。同ビジョンは、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)などによる「第4次産業革命」が進行し産業構造や就業構造の劇的な変化が予想される中、今後わが国がどのような進路を取るべきかの指針となるものである。
同ビジョンによると、自然や社会のあらゆる活動の情報がデータ化され世界のデータ流通量が2年ごとに倍増するなど従来にないスピードで変化が進み、AI 等でデータ解析がより深くより容易になることで、新たなサービス・製品の創出による社会課題の解決、市場の拡大が想定される。
第4次産業革命では「データ」の利活用が付加価値の源泉となるが、第一幕である「バーチャルデータ」(Web検索、SNSなどのネット空間での活動から生じるデータ)の取得については、海外のIT企業(グーグル、アマゾン、アップル等)がプラットフォームを支配しているのが現状である。
そして第二幕の「リアルデータ」(健康情報、走行データ、工場設備の稼働データ等、個人・企業の実世界での活動についてセンサー等により取得されるデータ)についても欧米企業が先手を打ちつつあるが、対応次第では日本企業もまだリーダーの地位を獲得できるチャンスはある。そのため今こそわが国は自らの強みを活かし、社会課題の解決と経済成長の両立に繋げる転換をするべきだと同ビジョンでは提言している。
中小企業の現場としては、基本的なIT利活用基盤の構築自体がそもそもの課題であるが、同ビジョンの戦略には「第4次産業革命の中小企業、地域経済への波及」という項目が設けられている。具体的には、まずは中小企業におけるIT導入を促進するため、(1)専門家派遣(今後2年間で専門家を1万社以上に派遣・導入支援実施)、(2)業種・企業の垣根を超えた共通システムの整備(国際標準化等)、(3)自動化支援(ロボット導入支援等)等の支援策が検討されている。
中小企業でのIT投資は企業体力的になかなか進んでこなかったのが現実だが、逆に言うと、そうした中小企業でIT投資を行うと、生産性が大きく向上する余地があるともいえる。例えば純米大吟醸「獺祭(だっさい)」で有名な旭酒造(山口県岩国市)は、富士通と協力しセンサー等のIoTを使って発酵中の米の温度や水分含有率など酒造りの全工程で詳細なデータを蓄積。その分析から最適な製造法を導き出し安定生産と付加価値拡大を実現した。
各中小企業においては、新産業構造ビジョンの内容や方向性を念頭に置きつつ、政府の各種支援策を上手に利用しながら、大企業にはない小回りを活かし果敢なIT投資やオープンイノベーション※に取り組みたい。それにより第4次産業革命という大変革の波に乗って新たな収益源を創出できる可能性も十分見込まれよう。 (吉村謙一)
※他社、大学、研究機関等の外部と共に、それぞれが持つ技術やアイデアを組み合わせて革新的な商品やビジネスモデルを生み出すこと。