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■「鹿」が重要な役割
全国的にインバウンド(外国人観光客)が増加し、奈良の観光地にも多くの外国人が訪れている。特に奈良公園周辺の観光地に行くと、外国人が溢れているのが実感できる。
奈良商工会議所が平成28年11月、12月に東大寺南大門周辺で行った「観光客街頭インタビュー調査」の結果をみると、奈良のイメージは、日本人が「鹿」「古都」「歴史」「大仏」の順、外国人が「美しい・きれい」「鹿」「自然」の順となった。奈良を訪問地に選んだ理由でも日本人、外国人とも「鹿」がその多くを占め、「鹿」が重要な役割を果たしている。
同調査で日本人、外国人に共通する問題に「ゴミ箱の設置」に関するものがあった。
ゴミ箱については、奈良県のホームページにも「奈良公園内にはゴミ箱を設置しておりません。ゴミの持ち帰りにご協力をお願い申し上げます」と書かれているように、奈良公園周辺の観光地では鹿の保護目的でゴミ箱が設置されていない。実際に、現地を訪れてみると、確かに「ゴミ箱が非設置」の旨の文言はあるが、その理由は書かれていない。また、奈良の鹿愛護会が鹿の保護のために設置した看板には、「ゴミはすてない。鹿が食べて病気になります」と表記されている。ただ、これらは別々に設置されているため、2つの文言を組み合わせて、「なるほど!だからゴミ箱がないのか」と納得する観光客は少ないと考えられる。つまり「ゴミ箱がなぜ設置されていないのか」が観光客にうまく伝わっていないといえる。
■ハーズバーグの2要因理論
アメリカの心理臨床学者、ハーズバーグが唱えた2要因理論によると、人が満足を感じる要因(動機付け要因)と不満足を感じる要因(衛生要因)は全く別物であって、満足に対して異なる影響を与える。動機付け要因は「あればあるに越したことはないが、なくてもかまわない」要因で、満足感を高める効果がある。衛生要因は「あって当たり前、なければ不満となる」要因であり、衛生要因を取り除いても不満足の解消に留まり満足感を高めることはできない。
前述の「ごみ箱」の件は衛生要因と考えられ、設置されていないことが不満因子となっているが、設置していない理由をはっきり明記することで、この問題はある程度解消できるだろう。
■観光活性化へ向けて
日本人の国内観光消費額は、少子化の影響等からここ数年伸び悩んでいる。インバウンドは増加傾向にあるものの、まだまだ全体の10%程度に過ぎない。全国で地方創生に向け、観光の活性化を柱と位置付ける自治体も少なくなく、さほど拡大しない市場においてパイの奪い合いが今後も続くと予想される。
そういった中、国内外から多くの観光客を呼び込み地域を活性化させるためには、観光客の満足感を高めることと同じレベルで、マイナスとなる不満要因を払しょくすることも必要である。観光地のオリジナリティを高め、他者との差別化を図ることも大事だが、「当然あるべき要因が満たされていない」ことは意外と見過ごされがちだ。しかしながら、これは決して無視できないポイントである。ゴミ箱の件は一例だが、こういった少しの気づきが、他地域との競合に勝ち残り、地域を活性化させるための重要なポイントと考える。(丸尾尚史)