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巷で「△△による経済波及効果は〇〇円」というフレーズを目にする。ところで、この数値を推計する際に、「純増」という視点が重要であるにもかかわらず、(故意か否かは別として)プラス部分だけみてマイナス部分が考慮されていない場合がみられる。
今、ある地域にホテルを開業した時、その地域がどのくらい潤うのか(ホテル誘致の経済波及効果)を推計するケースを考えてみよう。この場合、経済波及効果を計るうえで「建設に伴う工事費」と「宿泊者等がホテルで消費する額」が大きな要素となるが、後者の宿泊者等による消費額は宿泊単価と宿泊者数(稼働率)等を基に計算する。その際、推計した宿泊者数(新しいホテルに泊まった人)の中に「このホテルがなければ同一地域にある他の宿泊施設に泊まった人」が含まれていても、そのことが考慮されていないことがある。ホテル単独での効果を出すのであればよいが、あくまでも地域にとってどれだけの効果があるかを示すことが目的であるため、上記の人は除外して計算されるべきである。
同様のことは「イベント開催」や「特産品の販売」でも起こり得る。「〇〇イベント開催による経済波及効果」を推計するためには、イベントの来場者数や一人当たり消費額(宿泊費、飲食費等)といったデータを使う。このイベントが元々他に何もなかった場所で行われたならともかく、観光地やその周辺で行われた場合には、来場者の中に「観光地を訪れたついでにイベントを見に来た人」が含まれていると考えるのが筋。イベントがなくても観光地には来ているのだから、宿泊費や飲食費等、観光客が消費した額のすべてがイベントの効果に含まれるとは言い難い。ホテルのケースと同様に、地域全体で考えるならばこの推計は地域にとって「純増」ではない。例えば、観光による経済波及効果がこれまで100億円だった観光地において、新たに開催したイベントの経済波及効果が20億円だったとしても、地域全体では120億円とはならないということだ。また、地域で新たな特産品を開発し販売したケースもしかり。仮に経済波及効果産出の基になる売上げが100万円であっても、その陰で売れなくなった既存商品が40万円分あれば、「純増」は60万円に留まる。
これに対し、経済波及効果を「純増」で示した好例のひとつが「プレミアム付き商品券の経済波及効果」である。プレミアム分も含めた総額を食材など普段の買い物に使ってしまえば、消費の増加(「純増」)はないので、商品券がきっかけとなってどれだけの消費が喚起されたかが効果推計のポイントである。各地で推計されている商品券発行の経済波及効果をHPで閲覧する限り、発行総額から「商品券がなくても購入した商品」の額を控除した「純増」で経済波及効果が推計されている。
経済波及効果はあくまでも推計であって、あらかじめ決められた前提条件のもとで試算した数値である。そうはいうものの、推計は可能な限り現実に近い条件で行われるべきであり、マイナス面を考慮しない「チェリーピッキング(いいとこ取り)」では真の経済波及効果とは言えない。 (丸尾尚史)