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モチベーションを高める「ペップトーク」 (2018年7月)
主席研究員 橋本 公秀
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■反則タックルの波紋

日本大学アメリカンフットボール部(以下、日大アメフト部)の反則タックルの問題が世間を賑わした。日大アメフト部の選手が、ルールを無視してボールを持っていない無防備な相手選手に背後からタックルをして怪我を負わせた出来事は、組織と個人の係わりに関する問題であり、個人が何らかの組織に属する現代社会においては身近に起こりうる問題である。

厳しい上下関係の規律が求められるのは、上位下達型の組織が形成されている企業や体育会系運動部などでよくみられる。確かに厳しいトレーニングを乗り越えた先に栄冠があると、苦しい練習に耐える根性論が賞賛された時代もあったが、価値観が多様化した昨今、威圧的に権力を押し通す指導は、パワハラ以外の何物でもない。選手とコミュニケーションもほとんど無く、重圧をかけるばかりで励ます言葉もない指導は、もはや時代遅れであることを指導者は肌で感じてほしい。

■心に火をつける言葉がけ

これからの指導者や管理者には、選手や部下の心の奥にある「やる気」や「貢献欲求」を引き出すことが求められる。また思い切って一歩前に踏み出せる理論を越えた力強いひと言で相手のモチベーションを高めることが望まれる。

この力強いひと言は、アメリカのプロスポーツ界で生まれた「ペップトーク」と呼ばれる。ペップトークは、相手の心に火をつけ、持っている力を存分に発揮させるショートスピーチのことで、肯定的な短い言葉でわかりやすく伝えることが重要である。

人は言葉で考え、言葉で意思を伝える動物であり、相手のやる気を引きだしたり、逆につぶしたりするのも言葉が引き金になることが多い。例えば「お客様のニーズをつかまないと売上はアップしないぞ」というネガティブな表現と「お客様の声に耳を傾け、商品開発や営業活動に活かしていこう」というポジティブな表現とでは、明らかに後者のほうが「次に何をしたらいいのか」という建設的な発想につながりやすい。こうしたポジティブな言葉の積み重ねが部下のモチベーションを高め、売上アップという成果に結びつく。

■モチベーションが上がる3つの承認

人は(1)自分が成し遂げた結果(過去形)や、(2)自分が実行していること(現在形)、(3)自分が存在していること等を認められるとモチベーションが上がりやすい状態になるといわれ、心理学ではこれを「3つの承認」と呼ばれている。

これに対して「こんなのダメだ」と結果を否定され続け、「何をやってるんだ」と行動を否定され続け、さらに「おまえの代わりはいくらでもいる」と存在を否定され続けるとモチベーションは大いに下がり、その人はほとんど成果をあげられなくなる。

たとえマイナスのイメージの強い言葉や行動が目立つ選手や部下がいたとしても、どこかで承認できる部分がないか考え、能力を発揮しやすい状態を作り出す言葉がけをすることが、指導者や管理者に求められる。

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