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社会的課題解決と中小企業のビジネスチャンス(2020年8月)
事務局次長 上席研究員 刀祢 善光
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■企業の競争戦略

2020年度中小企業白書では、新たな価値を生み出す(=労働生産性※1を上げる)中小企業の分析が行われている。

この中で、(株)東京商工リサーチがポーター※2の提唱した「競争戦略」を基にアンケートを実施した※3。「競争戦略」では、業界内ライバルとの消耗戦をさけて業界内で勝てる状況を作りだすために対象市場の範囲と優位性(価格や差別化)を軸に戦略を考える。アンケートではこれを4つに分けており、自社の戦略に最も近いと回答が多かったのが、特定の狭い市場を対象とし価格以外の点で差別化した製品・サービスを提供する「差別化集中戦略」であった(図表1)。

図

■差別化のきっかけ

それでは、「差別化集中戦略」を採用する企業で差別化を検討するきっかけとなったのはどのようなことだったのか。同アンケートでは、きっかけとなった項目として3つの選択肢を設けた(図表2)。アンケート結果によると、製造業では「③顧客ニーズ起点」、非製造業では「②社会課題起点」と回答した企業の労働生産性が高い傾向にあった(労働生産性が「高い」、「やや高い」を合計した割合がそれぞれ③52.5%、②57.1%)。

製造業の「自社顧客のニーズに応えて差別化を行う取組み」は重要で成果を得られるのは非常に分かりやすいが、非製造業で「社会課題を解決する」という視点が他社との差別化を実現し、労働生産性を向上させている点が目を惹いた。

「社会課題を解決する」とは、最近よく耳にする「SDGs(持続可能な開発目標)※4」で示される経済、社会、環境などの問題に対して製品やサービス提供を通じて解決していくということである。製造業に比べ、非製造業では環境保護に関わるサービスなどが先行的に広まり易かったのではないかと考える。

図

■ビジネスチャンスの到来

以前から存在してきた社会的・経済的格差や環境問題が近年ますます悪化し社会の歪みが目に見えて増大してきたと感じている。これらの問題解決は理念先行で広範囲を対象とする大企業だけの世界と思っていたものが、それら歪みを解消したいというニーズが表面化し、いよいよ中小企業にとってもビジネスチャンスとなってきたということなのだろう。社会の歪みは歓迎することではないが、ビジネスとして解決できる転換点にきているのではないだろうか。

※1 労働生産性は、営業利益、人件費、減価償却費、賃借料、租税公課の合計額を従業員数で割った指標
※2 マイケル・E・ポーター 1980年
※3 「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」で調査対象は従業員5名以上の中小企業2万社、回答率22.7%
※4 2015年に国連で採択された国際社会全体の目標であり、17の分野の目標を示し、経済、社会、環境のバランスの取れた発展を目指す。