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2020年10月、菅首相が所信表明演説において「日本は2050年までにカーボンニュートラル※1を目指す」と宣言した。また、2021年4月の気候変動サミットでは、「2030年度に温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに、50%の高みに向けて挑戦を続ける」とも表明した。
これは日本だけが突出した目標を掲げているわけではなく、現時点で2050年までのカーボンニュートラルを宣言している国は120か国・地域以上にのぼる。産業革命以降の人間の活動によって、自然が吸収しきれない量の温室効果ガス排出が続いてしまっており、持続可能な地球環境や経済体制を維持するためには、2050年のカーボンニュートラルは達成せねばならないというのが世界的なコンセンサスである。世界のエネルギー全体を取り巻く状況が大転換点を迎えようとしているのだ。
こうした流れの中、2021年6月18日に、経済産業省が『2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略』を公表した。2020年12月にすでに同戦略は策定・公表されていたが、関係省庁と連携して内容の更なる具体化を行った。
同戦略では、「温暖化への対応を経済成長の制約やコストとする時代は終わり、国際的にも、成長の機会と捉える時代に突入した」と指摘し、「従来の発想を転換し、積極的に対策を行うことが、産業構造や社会経済の変革をもたらし、次なる大きな成長につながる」との認識のもと、あらゆる政策や手段を総動員して「経済と環境の好循環」に結び付けるとしている。そして各種検討の結果、どのような道筋でカーボンニュートラルへの転換を進めるかのイメージや、成長が期待できる産業(14分野)なども示している(図1、2)。
具体的には、電力部門では非化石電源の拡大、非電力(産業・民生・運輸)部門では、エネルギーの電化、電化しきらない熱の水素化、それでも残るCO2の回収・利活用(メタネーション※2や合成燃料等)を通じた脱炭素化を進めるなどの方向性が示されている。つまり、CO2を削減する手段は、大まかにいえば「電化、水素化、炭素の除去・再利用、更なる省エネ・省電力」のどれか(あるいは組合せ)しかないということである。
この2050年カーボンニュートラルは、従来の取組の延長線上では到底達成不可能な挑戦的な目標である。民間では、これまでのビジネスモデルや戦略を根本的に変えていく必要がある企業が多く出てくるだろう。カーボンニュートラルの大きな流れをチャンスと捉えて、政府の各種支援も活用しながら、自らのビジネスモデルを再構築してチャレンジすることができるか、各企業の中長期的な戦略的取組が問われるだろう。
※1…CO2をはじめとする温室効果ガスの排出と吸収・除去を、ライフサイクル全体で見て差し引きゼロにすること。
※2…CO2と水素からメタンを生成する技術。