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人への投資で成長の伸びしろを引き出す(2022年6月)
課長代理 副主任研究員 林 大祐
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■「社員」への投資が企業の成長をけん引する

欧米企業が成長する一方で、日本企業の成長が停滞している。原因は「人への投資」が少ないからだという指摘がある。

ここでは社員への投資が企業の成長をけん引する「人的資本経営」の視点や要素を紹介する。経営陣が成長した社員の強みを活かせば、これまでとは非連続な成長戦略を策定できるはずだ。

■「3つの視点・5つの共通要素」という枠組

令和4年5月に経済産業省が公表した「人的資本経営の実現に向けた検討会報告書~ 人材版伊藤レポート2.0~」の視点と要素を紹介する。


【人材戦略に求められる3つの視点】
 視点1:経営戦略と人材戦略の連動
 視点2:As is - To be ギャップ(理想と現実のギャップ)の定量把握
 視点3:企業文化への定着


【人材戦略に求められる5つの共通要素】
 要素1:動的な人材ポートフォリオ

将来の事業構想から中長期的に不足する人材の特定、社員の再配置や外部人材の獲得、退職者ネットワークの活用、専門人材の採用

要素2:知・経験のD&I(ダイバーシティ&インクルージョン:多様性を認め、受け入れて、活かす)

女性活躍、キャリア採用者、外国人材、多様な人材を受け入れて組織を運営する課長の育成

要素3:リスキル・学び直し

キーパーソンの登用・スキル伝播、処遇と報酬の見直し、長期休暇や大学・大学院留学の導入、社内起業・出向起業等の支援

要素4:社員エンゲージメント

できるだけ広い社内ポジションの公募、副業・兼業等の多様な働き方の推進、健康経営への投資と社員が熱意や活力をもって働けるWell-being視点の施策

要素5:時間や場所にとらわれない働き方

業務のデジタル化、オフィスで実施する業務の意義の再定義とデジタルで実施する業務との組み合わせ

■ビジネスチャンスの裾野を広げる

ここまで見てきたとおり「人的資本経営」は社員を資本と認識し、ビジネスチャンスの裾野を広げる発想です。成長する企業は社員がビジネスチャンスを掴む力が強く、これは社員の多様性、スキルや熱意、活力の高低に左右されます。

経営者が将来構想を踏まえ、自社に必要な「スキル」の学び直しとして何が必要かを検討することが大切です。例えば小売業の社員が社外で知り合った製造業の社員との対話で製造管理体制の課題や業務プロセスについて話す機会を持てば、自社にない新たな視点から課題に気付くかもしれません。また、製造業の社員が小売業の社員と交流し、マーケティングの視点を持てば、脱下請けで販路開拓に挑戦したいと提案されるかもしれません。このように社員の成長が将来構想の裾野を広げてくれるのではないでしょうか。

参考文献(資料・動画)
● 内閣官房:サステナビリティ開示に関する関係府省会議
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/sustainability/index.html
● 経済産業省:人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す~
https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinteki_shihon/index.html