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インバウンド隆盛に代表されるマスツーリズムの台頭は、地域社会に経済的価値を創出した一方で、オーバーツーリズム(観光公害)という負の影響をもたらすこととなった。コロナ禍で大きく移動が制限され、観光が果たす文化交流・相互理解といった本質的な価値の重要性が改めて認識される中で、地域の持続的成長に資する「サステナブル・ツーリズム」に注目が集まっている。
■サステナブル・ツーリズムとは
「サステナブル・ツーリズム」の日本語訳は「持続可能な観光」。UNWTO(国連世界観光機関)の定義によれば「訪問客、業界、環境及び訪問客を受け入れるコミュニティのニーズに対応しつつ、現在及び将来の経済、社会、環境への影響を十分に考慮する観光」のことを指す。より具体的に言えば、①将来にわたって地域の経済成長に資するべく、②誰一人取り残すことなく、③資源を効率的に活用しながら、④文化的価値や多様性に焦点を当て、⑤相互理解や平和・安全に資する観光となる。
2022年6月公表の大手宿泊予約サイト「ブッキング・ドットコム」の調査によれば、世界の旅行者の8割、日本の旅行者の7割が「サステナブルな旅は自身にとって重要である」と回答しており、高い関心を集めている。
■「日本版持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」
地域においてサステナブル・ツーリズムを実現する上で参考になるのが「日本版持続可能な観光ガイドライン(略称:JSTS-D)」である。
JSTS-Dは「持続可能な観光の国際基準(GSTC-D)」の日本版として、GSTC-Dに倣い「持続可能なマネジメント」「社会経済のサステナビリティ」「文化的サステナビリティ」「環境のサステナビリティ」の4つの視点から構成される(図表)。戦略と実行計画を立て、関係者間の役割と責任を明確にするとともに、社会経済、文化、環境それぞれの指標を定めて進捗管理を行うことで、持続可能な観光地経営に向けた統合的向上を図ることを目指している。
■サステナブル・ツーリズムの具体例と課題
サステナブル・ツーリズムの具体例としては、地域住民の暮らしに配慮しながら、地域の歴史や産業、文化について学びを深める歴史文化体験や、入境人数を制限し生態系にも配慮しつつ、あるがままの大自然を楽しむアドベンチャーツーリズム(自然観光)などが挙げられる。
さらに、今後一層のサステナビリティに関する意識の高まりを受け、CO2排出量など観光に伴う環境負荷を最低限に抑えることを意識した旅の形も一般化してこよう。
その一方で、サステナブル・ツーリズムを意識している旅行者、特に海外からの旅行者を想定した情報発信が十分でないケースもある。ポストコロナを見据え、サステナビリティ推進にかかる実効的な取り組みと併せ、適切な情報発信が今後の課題と考えられる。