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企業経営におけるAI(人工知能)活用の留意点(2022年9月)
事務局次長 上席研究員 刀祢 善光
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■AI(人工知能)とは

掃除や配膳ロボット、無人コンビニ、チャットボットなどAIを活用した数多くの製品・サービスが登場している。AIとは、さまざまな情報(データ)を脳(アルゴリズム)が処理し、判断(予測)を行うもので、人間の意思決定のあり方に近いことから、「人工知能」とも呼ばれている。

以前のコンピュータなどは人間が作ったプログラムに従い人間の認識の範囲内で動くものだったが、現在のAIでは一定範囲の大量のデータを学習し(深層学習)、その中に潜んでいる見えにくい傾向や適切な判断基準を見つけることができるようになっている。

<図 AIの仕組みイメージ>

図

(出所:経済産業省「AI導入ガイドブック①構想ステージ」)

■企業経営での効果

現在のAIは与えられた範囲のデータを学習していき、スキルを高めることで劇的に生産性を向上させることができる可能性を持つ。企業経営における具体的な例では、製品の自動検査、自動見積り、生産環境データからの不良品発生の予測、来店客数や受注などの需要予測とそれに基づいた発注、条件により価格を変動させる「ダイナミックプライシング」などがあり、多方面で成果を上げている。

実際にAIを活用することにより、①生産性向上による売上・利益の増加、②単純作業からの解放とより創意工夫が求められる業務への転換による従業員の離職防止、③熟練技術者の勘や知恵に頼った高度な作業や判断を自動化することによる技術承継や若手の育成などの効果があった事例が紹介され、導入効果は高い。

■ブラックボックス化

しかし、AIも万能ではなく、問題点も考えられる。それは、AIの大きなメリットの裏返しである。これまではコンピュータが出した判断は人間が作ったプログラム(道筋)に従ったものであったため、その根拠を知ることができた。現在のAIは深層学習によりスキルを高め判断を下すため、人間には判断の過程がブラックボックスの中となり、根拠が分からなくなっている。AIは理由を語らないのである。

この特性を考えるとき、AIに向く業務と向かない業務があることが分かる。人の安全や経営方針に関わる業務など事業継続の根幹に関わる事案ではAIが下した判断を鵜呑みにする訳にはいかない。AIが偏ったデータを学習しスキルアップしていれば判断自体が誤りとなり、思考過程が分からない故に誤りが起こった原因を追究して修正することができないからである。

■企業経営への活用へ向けて

現在のAIは、職人やベテランが長年の経験で得た勘と知恵に基づいて専門的な判断を行っていた業務に活用すると効果が大きいと言われている。大量の作業の効率化や多くのデータから法則性を見つけ出して判断を行う業務では人間が行うよりもむしろAIが適していると考えられる。

ブラックボックス化の観点に留意しつつ、AIを有力なツールとして使いこなして成果を享受することで、より高度な経営が実現できるのではないだろうか。