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デジタルデバイドとは情報通信技術を活用できる人とできない人との間に生まれる格差のことを言う。1990年代に当時の米副大統領アル・ゴア氏の発言がきっかけで広まったと言われ、我が国では2000年代初頭より総務省「情報通信白書」などで目にするようになった。国の「デジタル田園都市国家構想」では、地理的な制約、年齢、性別、障害の有無等にかかわらず誰もがデジタル化の恩恵を享受するとともに、デジタルを介した格差や分断が生まれないよう留意することを重点施策の一つとしている。国が目指す「誰一人取り残されない」デジタル社会を実現するためには、デジタル化の阻害要因となっている地域間・個人間に存在する格差を認識し、地域の実情に合わせた対策を検討していく必要があるということだ。
もっとも我が国は、光ファイバの整備率が99%超であるなど、デジタルインフラの普及は国際的に見ても進んでおり、個人や企業が地域間格差を要因にデジタルデバイドに陥るケースは比較的少ない。一方で、現在最も顕在化している課題は、高齢者がスマートフォン(以下、スマホ)などのデジタル機器の活用に消極的、又は意欲はあるが使いこなせないことで、地域社会におけるデジタル化の流れに乗り遅れていることである。この問題は自治体が進めるオンライン行政の実効性に影響を及ぼすことはもちろん、防災のオンライン化が進展する中での対応の遅れは、発災時に生死を左右する事態となる可能性がある。そこで全国の自治体におけるデジタルデバイド対策は、多くが高齢者を対象としたものとなっている。
現在、自治体の対策で最も多く行われている事業は、高齢者スマホ教室である。国では自治体の取組みを支援するため、2021年度から総務省「利用者向けデジタル活用支援推進事業」を実施している。そのうち「地域連携型」と呼ばれる事業では、総務省に採択された事業者が、マイナンバーカードの申請方法などあらかじめ指定された内容のスマホ講座を自治体と連携して実施する場合に人件費や諸経費相当額を補助しており、奈良県内の自治体でも利用されている。さらに一部の自治体では、内容を自由に設定できる独自講座の開催や、スマホの無料貸出しを含む体験教室を実施するなど、地域の実情や住民のニーズに合わせた取組みを行っている。
もっともデジタルデバイド対策を継続していくためには、いつまでも行政の支援に頼っていくわけにはいかない。住民が身近な知り合いなどを自発的に支援することで、地域全体のデジタル化の実現を目指すような共助の仕組みを構築し横展開していくことが理想だろう。例えばスマホ教室など行政の支援への参加をきっかけにデジタルに対する苦手意識を払拭した高齢者が、近所の高齢者を誘いSNSで新たなコミュニティを作るといった取組みが考えられる。高齢者が高齢者を支援することで、「スマホ画面の字が小さい」「入力操作が難しい」といった高齢者ならではの悩みにも自分事として対応できるメリットもあるだろう。
電子国家として名高いエストニアではほぼすべての行政手続きをオンライン化しており、60歳以上の人でも8割超が日常的にデジタルサービスを使用しているとの驚きの調査結果※もある。もっとも同国においても一足飛びにこの状況に至ったわけではないだろう。我が国のデジタル化を国民目線で進めていくためには、オンライン行政の進展と合わせ、我が国さらには各地域の実情に合ったデジタルデバイド対策を適時・適切に講じていく必要があるだろう。
※行政&情報システム2020年6月号掲載
「エストニアITサービスの高齢者利用実態調査」