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心理学的分析からみたヒューマンエラー
事務局長代理 上席研究員 八木 陽子
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■心理学からみるヒューマンエラーの分類

ヒューマンエラーとは、人間が起こすミスや事故のことを指すが、心理学においては動作や行動だけでなく、判断や意思決定の失敗もヒューマンエラーとみなされる。イギリスの心理学者ジェームズ・リーズンは、安全を損なう行動(不安全行動)を意図しない行為と意図的な行為に分類したうえで、「スリップ」「ラプス」「ミステイク」の3つをヒューマンエラーとしている(図1)。

図

スリップとは、やろうとしていたことは正しかったのに実行した段階で失敗したもので、「FAXの送り先を間違えた」等、いわゆる“うっかりミス”に当たる。ラプスもスリップと同じように意図しない行為に伴うエラーであるが、スリップが注意の欠如によって生じるのに対し、ラプスの主な原因は記憶の欠落であり、「FAXを送り忘れてしまった」等が挙げられる。一方、ミステイクは「FAXを送ってはいけないのに、送ってしまった」等、思い込みや勘違い、早合点等によって、そもそも正しいと思ってやろうとしていたこと自体が間違っていた場合である。

■組織全体でエラーを見越した対策を取る

職場など多くの人や物が関わる現場でヒューマンエラーを減らすためには、個人だけではなく組織全体で対応できる仕組みを考える必要がある。例えば、スリップを防ぐには、重要な作業やマンネリ化した動作に対して適切に注意を払われるよう疲労の蓄積は無いか、また、注意を阻害する騒音や気温等の職場環境へも配慮が必要である。ラプスにはメモを残す、必要なものは目に付くところにまとめて置いておく、時間になったらアラームを鳴らす等の工夫をする。ミステイクに関しては、適正な判断をするための知識の教育や、複数人での確認、いわゆるダブルチェック、トリプルチェックが行われるが、責任の所在を明らかにしないと一人一人の責任が分散されやすいことや、上下関係がある場合、立場が下の者はエラーを見つけても指摘しにくい点に注意が必要だ。また、なぜエラーとなったのか、その背後要因を究明してそこに手を打たなければ改善はできない。当事者に対して「しっかりしろ」など精神性に訴えたり、処罰したりしてもエラーの再発を防止することはできないと言われている。

損害保険会社に勤めていたハインリッヒが、ある工場の労働災害のデータから統計的に割り出した「ハインリッヒの法則」によると、1つの重大な事故や災害の裏には29の軽微な事故・災害があり、さらに、その陰には300のヒヤリハット(結果的には大事に至らなかったものの、ヒヤリとしたり、ハッとしたりした出来事のこと)があるという。もし、現場に「潜在的な穴」があるとすれば、ヒヤリハットの段階でできるだけ穴を塞いでいくことが重要である。そのためには、些細なエラーであっても、それを隠ぺいせず、集積し、分析していくような仕組みを組織の中で作り上げていくことが必要だ。ヒューマンエラーが起きること自体を恐れるのではなく、大惨事へとつながらないよう、エラーを見越した対策を取っておく必要があるだろう。

※行政&情報システム2020年6月号掲載
「エストニアITサービスの高齢者利用実態調査」