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近頃、マスコミ報道で「2024年問題」という言葉を頻繁に目にするようになった。これは、2019年に施行された「働き方改革関連法」が5年間の猶予を経て、2024年4月から自動車運転業務に適用されるにあたって生じる様々な問題を指す。
同法による時間外労働の上限規制については、労使合意のもとで年720時間、月100時間未満とするなど2019年から一般企業に順次適用されている。自動車運転業務については、法施行後も年960時間以内で、かつ1か月の上限についての規定がないなど、業務の実態を踏まえ一般則より規制は緩やかなものとなっているが、将来的には一般則と同様の規制適用を目指すこととしている。
ハローワークが実施した「応募者から把握した就職差別につながるおそれがある事象」に関する調査結果(令和3年度)によると、「本人の適性・能力以外の事項を把握された」と指摘があったもののうち、「家族に関すること」の質問が40.5%と最も多く、次いで「思想」の質問が12.4%、「住宅状況」が11.1%、「本籍・出生地」が8.5%となっています(図表1)。
時間外労働の削減に伴う業務量の減少は、事業者にとっては新たな人手を確保できなければ売上減に、ドライバーにとっては賃金水準の上昇を伴わなければ収入減につながる。特にトラック運送業界で体制整備が進んでおらず、同業界の構造課題である人手不足と低賃金を解消しない限り、この問題の解決は難しいと言える。人手不足と低賃金の要因は、1990年の物流二法(注1)施行以降、段階的に実施された規制緩和の影響が大きい。事業の参入が「免許」から「許可」に、運賃・料金(注2)が「認可」から「届出」に緩和されたことで事業者数が大幅に増加する一方で、バブル経済の崩壊以降の長引く不況もあり輸送需要は伸び悩み、過当競争が運賃・料金のダンピングを招いた(図表1)。既存の売上高を確保しつつ働き方改革を実現するためには、人手不足の要因となっている低賃金の解消が不可欠であるが、企業努力では対策に限界があり、国や業界団体が様々なサポートを行っているところである。
2019年には国が法改正を行い、2020年に標準的な運賃の告示制度を導入した。99%以上が中小企業で多重の下請け構造を有するトラック運送事業者は荷主への交渉力が弱く、コストに見合った対価を要求しづらいことから、距離・時間に応じた標準運賃や休日・早朝・深夜の割増率、待機時間料などを告示したものである。もっともこの告示はあくまで運賃・料金交渉の材料で強制力はなく、また告示のタイミングがコロナ禍によるトラック輸送量の停滞期と重なったこともあり、奈良県内の事業者からは、この告示により荷主との交渉に進展があったとの声はあまり聞こえてこない。
国では2022年12月、全国の労働局において「荷主特別対策チーム」を編成し、トラックドライバーの長時間労働の是正のため、荷待ちによる待機時間削減に向けた働きかけなどを行っている。奈良県内でも「事業者が荷主との間でドライバーの労働条件を交渉する際の後押しとなっている」との声を聞く。地道な活動の中で双方の妥協点を見出していくことで少しずつ前に進んでいるようだ。
災害時などに最前線で暮らしと経済を支え続けるトラックドライバーはエッセンシャルワーカーとして取り上げられるが、その実態は持続可能と言い難い。この問題の抜本的な解決にはもう一歩踏み込んだ対策や支援が必要となる。
注1) 規制緩和による競争の促進と安全規制の強化による輸送の安全の確保を目的として施行された貨物自動車運送事業者法と貨物運送取扱事業法の2つの法律のこと。
注2) 運賃:「貨物の場所的移動の対価」、料金:「運送以外の役務に対する対価(積込料又は取卸料、待機時間料、附帯業務料)など」