一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
文字サイズ

デジタル田園都市国家構想総合戦略による地域社会のデジタル化
課長 主任研究員 秋山 利隆
PDF版はこちらからご覧いただけます。

現政権が掲げる「新しい資本主義」は、市場や競争に任せればうまくいくという新自由主義の考え方により生じた格差や貧困の拡大、都市と地方の格差といった弊害を乗り越え、成長と分配の好循環による持続可能な経済社会を目指すための経済政策である。「デジタル田園都市国家構想」は新しい資本主義の実現に向けた成長戦略の最も重要な柱で「地域課題をデジタル実装により解決し、すべての人がデジタル化のメリットを享受できる心豊かな暮らしを実現」するための構想である。

国では、地域課題の解決に向け第2期「まち・ひと・しごと創生総合戦略」を令和2年度からの5か年計画として推進してきたが、コロナ禍において我が国のデジタル化の遅れが顕在化したことなどを受け、令和4年12月に同戦略を「デジタル田園都市国家構想総合戦略」(以下「国の総合戦略」)へと全面改訂した。同時に各自治体に対しては、国の総合戦略を勘案し、地方版総合戦略を策定・改訂するよう通知した。国から自治体に対しては戦略策定・改訂のための手引きが公表されており、自治体の担当者が活用していくこととなる。この手引きは、地方版総合戦略の策定・効果検証のため、これまでも国から公表されてきたが、今回(令和4年12月版)は行政や社会のデジタル化に関する要素が項目に盛り込まれ、あわせて想定されるKPI(重要業績評価指標)についても示された(図表1)。

図

令和5年度からスタートする地方版総合戦略について国の総合戦略を勘案したものとして既に公表済の自治体もあるが、多くの自治体は未策定である。新しい戦略について見直しを進めている自治体もあるだろうが、具体的な方針が定まっていないところも多いことだろう(令和5年4月時点)。

もっとも、重要なことは素晴らしい戦略を策定することではなく、デジタル実装による地域課題の解決という成果をあげていくことである。手引きにおいては、数値目標の設定にあたり「行政活動そのものの結果(アウトプット)ではなく、その結果として住民にもたらされた便益(アウトカム)に関するものが望まれる」とされている。地域の実情を把握する自治体が、住民目線で実効性の高い戦略を策定することが望まれる。

デジタル実装ですべての地域課題を解決できるわけではない。顔の見える関係でうまく回っていたものが、デジタル実装によりプロセスが非効率となってしまうこともあるだろう。また行政や社会のデジタル化に一部の住民が付いていけず、デジタル化の恩恵を享受できない「デジタルデバイド」の問題にも留意が必要である。

デジタル田園都市国家構想が掲げる「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を国民全員が望んでいるかどうかは別の議論となるが、これまでの地方創生の取組みをデジタルの力を活用して加速させるという方向性は間違いのないところである。これまでの取組みでは歯止めがかからなかった東京圏への一極集中や地方の過疎化、地域産業の衰退などの地域課題が、デジタル化の進展により新たな展開を見せるのか、今後の動向が注目される。