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大阪・関西万博開催による奈良県観光への影響について
主席研究員 丸尾 尚史
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大阪・関西万博(以下、「大阪万博」)が大阪市此花区夢洲(ゆめしま)で2025年4月13日から10月13日までの184日間開催される。推定来場者は2,820万人で、そのうち国内来場者が大半を占め87.6%の2,470万人と見込まれている。過去の博覧会では、1990年の「国際花と緑の博覧会」(会場:大阪市、守口市)が約2,313万人(期間:183日)、2005年の「愛・地球博」(会場:愛知県長久手市など)が約2,205万人(期間:185日)であり、それらを上回る来場者を想定している。大阪の民間シンクタンクは大阪万博開催の経済効果を複数パターン推計しており、最も低い場合で2兆3,759億円、最も高い場合は2兆8,818億円と試算する。ただ、奈良県への影響をみると、同県にもたらされる効果は前者が0.4%の97億円、後者でも0.8%の216億円と僅少である。

その理由としてはいくつか考えられる。「旅行・観光消費動向調査」(観光庁)によると、2019年4-6月期および同7-9月期(※1)の「観光・レクリエーション目的の宿泊旅行者の観光消費額」(旅行中、国内居住者、1回当たり)は5万円強で、内訳は次表のとおりである。大阪万博の入場料(大人当日券・予定価格7,500円(※2))は、おそらく「参加費」か「娯楽等サービス費・その他」に含まれると思われるが、宿泊旅行者の一般的な観光消費額からみると入場料7,500円は相当のウエイトを占めており、予算的にみても他地域への訪問は厳しい状況といえるだろう。

(※1)新型コロナウイルス感染症が拡大する前の年で、大阪万博の開催月が含まれる四半期。

(※2)別途、入場時期によって段階的に安くなる割引券が設定されている。

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さらには、過去の例からみても大阪万博は1日では回り切れないことや、期間限定という「スノップ効果」(※3)も働いて、翌日や前日に他の観光地を訪れるケースはさほど多くないと考えている。敢えて言うならば、会場近くの宿泊施設が満杯のため、入場者が近隣府県に宿泊することはあり得るだろう。

(※3)スノップ効果…個数限定や期間限定などによって入手が困難になればなるほど欲しくなり、一般にどこにでも売られているものへの関心が薄くなること。

したがって、大阪万博を目的に来場した遠方からの観光客が、ついでに奈良を訪れることはあまり期待できない。また、会場周辺に泊まれない宿泊客が奈良県にどれだけシフトするかも疑わしいところである。一方で、これまで奈良県観光で宿泊観光客の多くを占めていた首都圏在住者や大阪府を中心とした日帰り客が大阪万博に流れると予想する。加えて、修学旅行先もこの時期だけは、奈良県から大阪万博に振り替わる可能性がある。さらにいうと、1970年EXPO70での「太陽の塔」がそうであったように、会場や施設が万博終了後に新たな観光資源(レガシー)となるかもしれない。

答えがでるのはまだ先だが、奈良県の観光にとっての懸念材料は多いと言わざるを得ない。