一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
文字サイズ

公的統計の課題とオルタナティブデータの活用
主任研究員 秋山 利隆

国や自治体が実施する公的統計は信頼性の高いデータが継続的に提供されており、重要な情報基盤として社会経済の発展や国民生活の向上に役立っている。一方で公的統計は、「調査・集計・公表」というプロセスを踏むことから公表にはタイムラグが発生し、速報性に劣る。また近年では、電子商取引などを十分捕捉できておらず、網羅性に問題があるとの指摘もなされるようになった。

行政や民間企業の意思決定において将来の趨勢といった大きな流れをとらえる上では、これらは大きな問題にならないが、コロナ禍のように状況が日々変化し、その都度即時の判断が求められるような状況においては問題となる。そこで携帯電話の位置情報やPOSデータなど、業務システム内においてリアルタイムかつ自動的に蓄積されたビッグデータが、「オルタナティブデータ」として注目されることとなった。

オルタナティブ(alternative)には、「代わりとなる」などの意味がある。アメリカではコロナ前から公的統計を補完・代替するものとしてこれらのデータを積極的に活用する動きがあったが、我が国では一部に留まっていた。コロナ禍でこれらのデータに注目が集まったのはある意味当然の流れであるが、その有用性が広く認知されたのは、国がオープンデータとして「V-RESAS」を提供したことの寄与が大きい(図表1)。

図

V-RESASは、コロナ禍が地域経済に与える影響の把握及び地域再活性化施策の検討におけるデータの活用を目的に開発され、2020年6月に国が提供を開始した。コロナ禍における国の対応は、諸外国と比べて遅いという指摘が多々あったが、V-RESASの提供に関しては極めて迅速な対応だったと言えるだろう。

もっともV-RESASはデータ活用の入り口である「見える化」を目指したもので、時間やエリア、カテゴリーといったデータの粒度は粗い。これらを戦略的に活用するためには、データの提供元から粒度の細かいデータを購入することが一つの選択肢となっており、ビッグデータを保有する企業にとってはこれが新たなビジネスとなっている。

オルタナティブデータは、母集団が特定の民間サービスの利用者であるというバイアスがあり、またデータ収集の持続可能性についての保証がなくデータ提供が突然終了する恐れもある。そのようなネガティブな側面を踏まえても、オルタナティブデータの活用が、データ活用の巧拙を左右するようになったと言えるだろう。

【参考文献】渡辺努・辻中仁士著「入門 オルタナティブデータ」(日本評論社)