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最近、新聞等のメディアにおいて「経済効果」という言葉が頻繁に取り上げられている。大阪・関西万博(以下、万博)に関する注目が高まったことに加え、プロ野球の日本シリーズが関西対決であったことから、関西圏において特にこの言葉を目にする機会が多かったのではないだろうか。
万博の公式ホームページによると「日本経済及び大阪・関西の地域経済の活性化やビジネス機会の拡大による中小企業の経営強化により、約2兆円の経済波及効果が見込まれる」とある。また、宮本勝浩関西大学名誉教授の試算では、上記「関西ダービー」の経済効果は「全国で約1,449億3,105万円、関西で約1,304億3,795万円」となっている。多くの人はこれらの数字の大きさに感心する一方、算出根拠について深く考察することはないだろう。ここでは、経済効果の推定にあたり一般的な手法である産業連関表を活用した産業連関分析について紹介するとともに、その分析結果が意味するところについて考察する。
まずは経済効果を推定する作業の流れを簡単に説明する。例えば万博では、国内外からの来場者により宿泊施設の売上は増加することが見込まれ、これが「①直接効果」である。続いて宿泊施設で提供する食材など直接効果の結果誘発される生産の増加が「②1次波及」、直接効果と1次波及により生み出される新たな消費、例えば万博に伴う宿泊需要に対応するために新たに宿泊施設に雇われた従業員がその給料で衣服を購入する行動などが「③2次波及」である。そして、これら①~③の合計が経済(波及)効果と呼ばれるものである。
産業連関表は、財・サービスの生産状況や産業相互間、産業と家計などの最終需要部門との間の取引をまとめた統計表で、宿泊などの特定部門に直接効果が発生した場合、農業や小売業などの他部門にその効果がどのように波及するかを計算するツールとして用いられる。なお、産業連関表は全国表のほか47都道府県や一部の基礎自治体でも公表されており、全国及び各地域内での経済効果の推定が可能である。
このように経済効果を推定する際の計算方法は理論として確立されているが、そもそもの前提となる直接効果の金額設定により結果は大きく左右される。例えば万博の実際の来場者数が計画を下回った場合、直接効果(①)に加え波及効果(②+③)も減少することになる。過去の事例を踏まえると経済効果の事後検証は甘く、また開催済のイベントは後戻りができないことから、事前検証をしっかり行い開催の妥当性をその時点で判断する必要がある。
また経済効果として推定された金額は、需要の増加額や生産の誘発額を合計したもので、それに伴い必要となる経費を差し引いたものではないため、その金額分の利益が発生するわけではないということにも留意が必要である。例えば最近話題となっている万博会場の建設費上振れは、主催者にとって頭の痛い問題であるが、万博の経済効果は当初の推定よりも増加することとなる。
万博の経済効果について一般財団法人アジア太平洋研究所(APIR)が、夢洲会場のパビリオンを中心に需要が発生するケースと、関西全体がパビリオン化し広域で需要が発生するケースとを比べ、後者(拡張万博)の経済効果の方が大きいことを分析している。同一のイベントにおける複数シナリオの経済効果を比較しており、一読して施策の妥当性を理解できるわかりやすい内容となっている。このように経済効果は金額に注目するのではなく、イベント等のあり方や妥当性を探る手法としてとらえるべきだろう。