一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
文字サイズ

“積読(つんどく)”のすすめ
課長 主任研究員 大橋 徹

■ 積読(つんどく)とは

「あっ、この本読んでみよう」と目に留まった本を思わず手に取り、何冊も買い進めていくと本が読まれずにどんどん積み上がっていく。このような経験がある人は多いであろう。また、今まさにそのような状況にある人もいるかもしれない。このような状況は「積読(つんどく)」と呼ばれるようだ。広辞苑によると、「(「つんでおく」と読書のドクとをかけた洒落)書物を読まずに積んでおくこと」とある。まだ読めていない本が高く積み上がっているのに、さらに本を買ってしまうこともあるのではないか。

自分が気になっている本が高く積み上がっていくにつれ、次第に「何とかして読まなければ」という焦りも出てくる。しかし、積まれているのはあくまでもこれから読みたいと思っている本であるから、読書家にとっては、読みたい本であふれている本棚は魅力的な場所でもある。眺めているだけで満足であれば、無理して本を減らす必要もないであろう。それゆえに、積読は必ずしも悪いことではないように思われる。

■ 気になった本はその場で買う

買った本をすぐに読み始めるのは難しいかもしれないが、気になった本はその場で買って、積極的に積読しよう。そうすれば、本を買う機会を逃さず、欲しいと思った本が手に入り、買えなくなるおそれがなくなる。本との出会いも、また一期一会である。気になった時に買うという機会を逃せば、もう二度とその本を手に取ることができないかもしれず、読むという選択肢が消えてしまう。たとえ新刊であっても安心はできない。今は時間がなくて読めない状況であっても、気になった本を手元に置いておけば、読む機会はいずれ訪れるであろう。今は興味が薄れてしまったことに関する本でも、いざ興味をもった時にすぐに手に取ることができる。いざ読みたいと思っても、その本が手元になければ読むことができない。とりあえず購入して手元に置いておき、読みたいと思った時に読むのがいい。手に入れたいと思った情報を脳が必要としているタイミングですぐに入手できるような状態が、積読の最大のメリットである。

■ 積読は知的好奇心のあらわれ

本の装丁は情報の宝庫である。積読しておけば、本の外観情報は日常的に無意識のうちに目に入ってくる。入念に考えられたタイトル、凝ったデザイン、書評の帯、裏表紙の要約文などを日常的に眺めることで、情報が頭の片隅に入ってきたり、時に新鮮なひらめきが生まれたりすることもある。買った本のほとんどは、自分の知的好奇心をもとに選んだものであるから、本がたくさん集まっている積読の状態は、自分がたくさんのことを知りたいと思っていることの証しであり、それらの本の存在が目に入るだけで知的な刺激を常に受けることができる。普段よく目にする場所に置いておくと、本の存在を忘れずにいられるし、いつか読もうと、本の存在を意識しながら過ごすだけでもよい。本を目につきやすい場所に置いておくことで、どのような分野の本があるかがわかり、自分の興味の傾向を知ったり、新しい発見をしたりすることができる可能性も生まれる。積読を上手に活用すると、このようなメリットもあるようだ。

以前に購入した本を改めて紐解いてみると、内容に説得力のあるものは、今でも色褪せることなく輝きを放っている。本には賞味期限がなく、どのような時代にも通用するような本は、積読されてしばらく経ってから読んでみても、その内容になるほどとうなずくことが多いものである。