一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
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常務理事 東尾 稔
大相撲に新時代の予感

大相撲の平成29年9月場所は3人の横綱と2人の大関が休場する波乱の場所となった。これほど多くの上位力士が休場したのは99年ぶりのことらしい。最終的には横綱日馬富士と大関豪栄道の優勝決定戦の末、日馬富士が9回目の優勝を飾った。

大相撲は日本古来の作法に基づく国技としての側面とプロ野球などと同じ選手(力士)を抱えてのスポーツ興行の側面がある。看板力士がこれだけ休むと興行面での影響が心配されるのだが、優勝争いが千秋楽まで持ち越され、国技館は連日大入りで満員御礼の状態が続いた。優勝が千秋楽に横綱と大関の対戦で決まることになったとき、NHK大相撲中継の解説を担当していた親方が「どちらが優勝するにしても最終日まで優勝争いが続くことになり、ホッとしました」と言ったのは興行主としての相撲協会の本音であろう。

上位陣の休場で若手力士の活躍が目立ったのも今場所の特徴である。新入幕から3場所連続で2ケタ勝利を挙げた21歳の阿武咲を筆頭に連日土俵を沸かせる取り組みが続いた。初の横綱・大関戦でも物怖じすることなく堂々と立ち向かう。「日頃の稽古の賜物」といえばそのとおりだが、日常生活でも特別の環境があるのではと思う。

インターネットで見つけた「力士たちのSNS事情」という記事によると若手力士が日常生活をツイッターやフェイスブック、インスタグラムなどで積極的に情報発信しているほか、元関脇豊ノ島がアキレス腱断絶と手術の経緯をブログで公開している。また横綱白鳳なども多くのフォロワーを持って日々の活動をオープンにしている。力士たちの日常の姿がありのままに発信されるSNSは影響が大きく、使い方を誤れば本人に大きなダメージをもたらすこともある。こうしたリスクを乗り越え、日本相撲協会もSNSの活用でファン獲得に成功している。

テレビ中継で土俵上の取り組みを観戦する人が大多数の中、SNSで地方巡業や休みの日のプライベートな写真などもアップされ、応援するファンにとってはこの上ないサービスとなっている。最近、外国人や若い女性などが大相撲に興味を示すという話も聞く。大相撲に限らず興行では若い人や女性ファンの獲得が大きな課題である。SNSなど新しい形で獲得したファンが求めるものは今までとは違うものかもしれない。

相撲部屋という閉じられた世界、厳しい上下関係などややとっつきにくい雰囲気のある大相撲。取り組み前、フィギュアスケートや陸上競技の選手と同様にイアホンから聞こえる音楽で集中力を高める力士たちが場所の中心となる日もそう遠くない。

投稿者:常務理事 東尾 稔|投稿日:2017年11月

常務理事 東尾 稔
がんばれ!地方鉄道

先日、JR北海道の記者会見で社長から衝撃的な発表があった。 JR北海道の在来線のうち、半数程度が営業赤字で今後同社による路線維持が困難に陥る可能性が高い。JR北海道は今後、沿線自治体と協議して、バス路線への転換や廃線も含めた抜本的改革を行うとのことである。JR西日本も2018年3月に広島県三次市と島根県江津市を結ぶ三江線を廃止すると発表しており、改修や安全管理に多額のコストが必要な鉄道を人口減少の続く地方で維持していくことの難しさを改めて思い知らされる。

そういえば先日訪問した富山県の立山黒部アルペンルートからの乗換駅、富山地方鉄道立山駅でも寂しい光景を目にした。当日は好天で、アルペンルートの乗り継ぎ駅はどこも満員、臨時便が出るほど利用者であふれていた。しかしながら下山してきた人は殆どが自家用車や待機していた観光バスに乗り込んだ。

立山駅から北陸新幹線の乗り継ぎ駅となる電鉄富山駅までは各駅停車で70分、特急で60分かかる。次の目的地までの移動時間や方法などの面で鉄道より車を選ぶ人が多かったのだろう。

この立山駅では発車時に駅員や女性職員さんなど4人がホームに整列し、手を振って「お見送り」をしてくれた。乗客の少なさに寂しい思いをしていた時、思わぬサプライズで心が温まった。電鉄富山駅と立山駅の間には、一日2往復だが、座席指定のおもてなし車両を併設した特急列車も運行している。生活者と観光客のニーズを吸収し利用者の満足度を高め、何とか利用者の増加につながってほしい。

人口減少が続く地域で奮闘する富山地方鉄道。「公共交通を軸としたコンパクトなまちづくり」をめざす富山市の方針のもと、運営は同社が担当し軌道や車両の保有・整備は富山市が行う「上下分離方式」が採用されている。

奈良県ではJRと近畿日本鉄道の鉄道2社とバスが地域交通を支えている。人口が増加していた時代は、互いにライバルとして競争していたが、人口減少時代の今、相互乗り入れや駅舎の共有化など補完しあうビジネスモデルが必要ではないか。「利用者にとって便利で快適な公共交通」が地域にもたらす効果は非常に大きい。過疎地で一旦は無人化された駅が「町の玄関口」として復活することを期待している。

投稿者:常務理事 東尾 稔|投稿日:2017年1月

常務理事 東尾 稔
都道府県対抗の魅力

今年も選抜高校野球の開会が近づいてきた。「春はセンバツから」と言われるほど日本人にとって身近な存在である。出場校は基本的に地区ブロック単位に予選を勝ち抜いた学校が選ばれるが、地域性も考慮される。今年は奈良県から私の出身地の高校でもある智辯学園高等学校が選ばれた。同校はセンバツ大会ベスト4が過去最高とのこと、今年はそれ以上の成績を期待したい。

他にも駅伝やサッカーなど地元代表を応援するスポーツは多く、県民の関心も高い。地元を応援したいという人々の素直な感情に訴えるこうした対抗戦のベースとなる都道府県という仕組みはいつからあるのだろう。

都道府県の起源は、諸説あるらしいが、一般的には明治維新と廃藩置県ということになる。廃藩置県は、当初、諸藩や奉行所・代官所などが統治していた区域を県としたため、全国に300以上の県が存在したが、明治4年から約20年をかけて統合、再編を繰り返し、明治22年にはほぼ現在の形となっている。なお、明治9年から14年には奈良県も堺県(当時)に編入されていた。

太平洋戦争の混乱を経て、わが国が平和国家としての発展を遂げる中、スポーツの振興を主な目的とする国民体育大会など都道府県対抗の競技大会が開催され、大きな関心を集めることとなった。

情報技術や交通手段の発達とともに人々の交流が広域化し、地元意識や人的なつながりの希薄化が言われる中、都道府県代表としてチームの成績向上に全力で取り組む選手・スタッフの努力が見るものに感動を与えるのは間違いないだろう。

先の第34回全国都道府県対抗女子駅伝で初優勝した愛知県チームは、アンカーの鈴木亜由子選手の才能を彼女が地元の中学生の時に見出し、10年がかりで優勝を狙えるチーム作りをやってきたとのこと。奈良県チームはスタートでの出遅れが響いて好成績とは言えなかったが、悔しい思いをした彼女たちにとって全国大会での経験はかけがえのない財産となる。

男子の大会でも若い人たちの活躍で都道府県対抗駅伝の大会記録更新が目立つという。2020年の東京オリンピックに向けてこうした都道府県対抗の大会が一層充実してほしいものである。

投稿者:常務理事 東尾 稔|投稿日:2016年3月

常務理事 東尾 稔
国際的な観光地「奈良」の再構築

日本を訪れる外国人が増えている。2014年は1300万人を超え、政府が目標とする「2020年までに2000万人」という数字も現実味を帯びてきた。特に関西国際空港(関空)に降り立つ外国人の増加は顕著で、アジアの人々には関空が日本の玄関口となっているのだろう。

関空から大阪や京都に移動する人が多く、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや大阪城、道頓堀、金閣寺など人気スポットでは外国人の姿を多く見かける。

奈良県においても関空からの外国人旅行者がみられ、観光地や宿泊施設などで外国人による売り上げが好調という声も聞かれる。

長く続いたデフレ経済に耐えてきた地元の事業者の方には一息つける状況かもしれないが、安閑とはしていられない。奈良県の2013年の宿泊者数は延べ人数で約236万人(うち外国人約17万人)と全国で最も少ない都道府県の一つである。近年の外国人宿泊者の増加も、大阪や京都に隣接する立地から、これらの地域に溢れた宿泊希望者が奈良に泊まる受け皿的な存在にとどまっている。また、「ある外国のガイドブックには奈良観光は半日で十分と紹介されている」という話も聞く。

奈良県民としては、外国人がもっと奈良に滞在し、奈良を拠点に全国を観光するスタイルにならないものかを考えたい。

奈良には3世紀の纏向(まきむく)遺跡(桜井市)をはじめ、7世紀の飛鳥・藤原京、8世紀の平城京など日本の本格的な政治の発祥地としての遺産群が多い。また、独自の宗教観とされる大峯山を中心とした修験道(山岳宗教)もある。これら日本の起源ともいうべき数々の観光資源を活用し、他地域の観光スポットと「歴史」をキーワードに、それらを組み合わせてストーリー展開できないか。

遠く1300年前には大阪湾から海外の使節団が平城京にやってきた。

これを現代に置き換え、関空に到着した外国人旅行者のうち、観光目的の人に奈良を第一宿泊地として日本の歴史を満喫してもらうプランを提案したい。

1994年の関空開港時、奈良県の経済界は関空から奈良への直通列車を要望したが実現できず、今はバス輸送にとどまっている。

奈良市付近にはリニア中央新幹線の新駅が予定されている。2045年という先の話だが、できるだけ早期の開通を願い、そして「夢のまた夢」ではあるが、奈良を乗り継ぎ駅とする「奈良~関空」のリニア高速鉄道や、完全複線化により環状線として運用できる、JRの大和路線・和歌山線・万葉まほろば線とのセットでインフラ整備を進め、飛鳥や斑鳩などを含めた国際的な観光地「奈良」の再構築を期待したい。

投稿者:常務理事 東尾 稔|投稿日:2015年4月

常務理事 東尾 稔
時は金なり

時に関する諺は驚くほど多い。「時は金なり」「光陰矢のごとし」「下手の考え休むに似たり」「石の上にも3年」「蒔かぬ種は生えぬ」「若い時の苦労は買うてもせよ」「今日できる事を明日まで延ばすな」等々昔から人々の頭の中にたたきこまれてきたのであろう。

勝負の世界でも、野球の投手交代のタイミング、相撲の立ち会いやラグビーのスクラムの間合いなど枚挙にいとまがない。

「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」など古代の兵法にも登場する「時」、勝負を左右する大きな要素であることは間違いない。

先日、静岡市での会合の後、徳川家康を祀る久能山東照宮と博物館を見学した。そこでは約400年前に家康が海難救助のお礼にとスペインの国王から贈られた「日本最古の置時計」が展示され、西洋技術を巧みに利用した家康の功績が添えられていた。

戦乱の世に終止符を打ち、江戸時代260年に亘る長期平和の礎を打ち立て、学問、産業、文化の基礎を確立した翁の存在感に圧倒され、時間を忘れそうになった。

高度にコンピュータ化の進んだ現代社会においては、スピードが求められ、大量の情報を瞬時に処理する技術が脚光を浴びる。

しかしながら、最後に判断するのは人間であり、膨大なデータに基づく材料が提供されていても判断を誤れば結果は不調となる。また、正しい判断をしても実施のタイミングが悪ければ不調となる。家康などリーダーと呼ばれる人たちは、目の前の状況に的確に対応するとともに、中長期的な視点で「人づくり、国づくり、組織の強化」に取り組んでいる。この中長期的な戦略(ビジョン)の巧拙が大きな差となるといわれている。

このように考えると、万人に等しく与えられている大切な時間の使い方が成否のカギを握るといえる。

自分自身のことでも、後で考えると「あの時、こうしておけばよかった」ということが多い。まさに「後悔先に立たず」である。

忙しい日々ではあるが、「様々な場面で最適のタイミングを見つける工夫」、「将来の自分を考えて今を生きる心構え」は持ち続けたいものである。

投稿者:常務理事 東尾 稔|投稿日:2014年6月

常務理事 東尾 稔
備えあれば憂いなし

今年の夏も厳しい暑さが続いている。

気象庁の予報では、9月も西日本では気温が高めに推移し、平年を上回る高温状態は改善されそうにない。

一方で、今年も東北や中国・四国、北陸など多くの地域で集中豪雨による大きな被害が発生している。中には1時間に100ミリを超える記録的豪雨もあり、被災地では避難する時間の余裕がなく孤立状態となったケースも報道されている。

また、地震活動も活発で、最近も宮城県石巻市で震度5強の地震が発生するなど、毎日のように地震や津波に関する速報が発表されている。

今後30年間での発生確率が70%とされる南海トラフ震源の巨大地震では、最悪の場合、死者32万人以上、経済被害220兆円超という被害想定もあり、我々に衝撃を与えるものであった。

この巨大地震による被害想定額は、今後の対策によって大きく減少させることができるものであり、有効な対策が早期に実現されることを期待したい。

大規模災害発生時には我々地域住民の冷静な対応が重要となる。

地震では、まず身を守ること、そして火災など二次的な被害の防止、避難時には落下物への注意など。また、台風など風水害には正確な情報収集と早めの避難が求められる。

これ以外にも様々な方法が考えられるが、一市民として、災害発生時の被害を減らす対策、例えば耐震工事や家具などの転倒防止、避難時の持ち出し袋の点検などは日頃からやっておきたい。

また、水や食料、身の回り品も一定程度の備蓄が必要だが、災害用として特別に用意するのではなく、毎日の食品を少し多めに買って消費期限の近いものから使う習慣づけが重要という。

自然災害が、いつ・どこで発生するかは予測が難しい。また、災害の規模が広範囲・甚大になるほど消防や自衛隊による救援活動は遅れる可能性が高く、隣近所の連携が求められる。

自分が大規模災害に遭遇した時、パニックにならないよう、日頃から防災情報に気を配り、地域の方々とのコミュニケーションを大切にしたいものである。

投稿者:常務理事 東尾 稔|投稿日:2013年9月