最近、本誌のオピニオン(巻頭言)で、県内の経済団体の方が、"企業経営者も深く心に刻むべきこと"として、近代経済学の父と呼ばれるアルフレッド・マーシャルの言葉「Cool Head, but Warm Heart」を引用しておられた。私はその言葉を目にした時、三十数年前の風に吹かれたような気分になった。というのは、この言葉は私が大学の専門課程でゼミの教授から教わり、当時の心境に何かがピタッときたのであろう、脳裏に焼き付いたのである。就職してからは、一度だけ職場の朝礼でこの言葉を披露させてもらったが、以来、密かに自分の「信条」としてきた。
話は変わるが、今年3月初めに、米国のSFドラマ・映画シリーズ「スタートレック」で宇宙船エンタープライズ号の技術主任「ミスター・スポック」役を演じたレナード・ニモイさん(83歳)の訃報が報じられた。短いニュースだったが、40年前の当時の映像や記憶が一瞬でよみがえってきた。
「スタートレック」は、私が中学・高校生の頃に「宇宙大作戦」という邦題でテレビ放送され、大学受験の最中にも、再々放送の深夜テレビを毎週欠かさず見ていた。「宇宙、それは人類に残された最後の開拓地である・・・」というナレーションで始まり、毎回のストーリーには娯楽作品の裏側で、社会問題への風刺が必ず盛り込まれていた。ミスター・スポックはバルカン星人と地球人のハーフで、「それは非論理的です」が口癖。バルカン星人としての論理至上主義の中で、地球人としての感情が見え隠れするキャラは、まさに「Cool Head, but Warm Heart」そのものであった。ニモイさんの死に、オバマ大統領も「私もスポックが大好きだった。心からお悔やみします」と哀悼の意を表している。
どうやら昔は、映画や小説といった仮想世界で感じたものが、夢や信条の醸成に少なからず影響を与えていたようだ。一方、今の若者たちはといえば・・・、スマホのアプリやネットゲームのバーチャルリアリティの世界に長時間身を投じ、依存症と言える者もいるという。単なるストレス発散のために、平気で他人を傷つける仮想世界に熱中しながら、どんな夢や信条が芽生えるのだろうか。中高年の思い過ごしであってほしいが、大人の想像を遥かに超える暗闇が潜んでいるような気がする。