一般財団法人 南都経済研究所地域経済に確かな情報を提供します
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主席研究員 島田 清彦
マンデラ元大統領の功績を偲んで

2018年7月18日、南アフリカ共和国(南ア)のネルソン・マンデラ元大統領の生誕100年を祝い、民主主義と反差別を訴え続けた功績を振り返る式典が世界各地で開催された。南アには今もアパルトヘイト(人種隔離政策)の「負の遺産」が色濃く残っているが、同氏の人物像や功績から学ぶべきことは多い。

マンデラ氏はアパルトヘイトへの抵抗運動を主導し、1964年に国家反逆罪で終身刑となり、重労働の服役生活を余議なくされた。90年に釈放された時は既に71歳になっていた。

27年も収監されながら、決して屈しなかった彼の精神は尋常ではない。収監中にも勉学を続けて法学士号を取得。アパルトヘイトの主要勢力であるアフリカーナー(特にオランダ系白人)との対話に備え、アフリカーンス語や歴史、ラグビーの知識を学んだ。

93年にノーベル平和賞を受賞。翌年に南ア初の全人種参加選挙が実施され、同国初の黒人大統領に就任。新しい国づくりでは、全人種の融和を図るため、6つの原色に彩られた新国旗に象徴される「虹の国」を掲げ、新国歌の制定など様々な手を打った。

大統領就任の翌年、南アでラグビーワールドカップの開催を控えていた。ラグビーはアパルトヘイトの象徴として、大多数を占める黒人の国民の間では不人気であったが、マンデラ氏は南ア代表チーム「スプリングボクス」が南アの白人と黒人の和解と団結の象徴になると考え、全力を挙げて支援。スプリングボックスは初出場で奇跡的な優勝を成し遂げた。当時の南アの状況は、クリント・イーストウッド監督による映画「インビクタス/負けざる者たち」で描写されている。

一方、世界に目を向けると、不安な動きがみられる。トランプ大統領のもとで米国は内向き志向を強め、不寛容な言動が目立ち、各国との摩擦を深めている。寛容と多様性を重視してきた欧州でも、近年、移民・難民の受け入れに反対する声が高まり、ポピュリズム(大衆迎合主義)や排外主義などが勢いを増している。

マンデラ氏は自伝『自由への長い道』の中で「肌の色や信仰の違いから人を憎むように生まれついた人間などいない。人は憎むことを学ぶのだ。憎むことを学べるなら、愛することを学べるはずだ」と述べている。人種や宗教の違いを乗り越え、寛容さと他者への思いやりを大切にし、世界中の人々の融和が図られることを願っている。また、外国人居住者が増えていく日本においても、マンデラ氏のような寛容を期待したい。

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南アフリカ共和国の国旗
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南アフリカの首都プレトリアの
ネルソン・マンデラ像とともに
投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2018年10月

事務局長・主席研究員 島田 清彦
クロアチアの絶景と美しい街並みを巡る!

2017年7月、クロアチア・スロベニアの2ヵ国を訪問。5日間、貸切バスで1780㎞移動し、美しい街並みと大自然の絶景を巡った。

スロベニアでは“アルプスの瞳”と称されるブレッド湖周辺を散策。手漕ぎボートで湖に浮かぶ可愛らしいブレッド島へ。幸せの階段とも呼ばれる約100段の石段を上り、“鳴らすと願いが叶う”と言われる鐘のある聖マリア教会へ。午後はヨーロッパ最大級(世界3位)の鍾乳洞「ポストイナ鍾乳洞」(全長約27km)へ。途中までトロッコ列車で移動し、徒歩で地下120mまで降りる。気温は10℃前後で防寒着を着ていても肌寒い。日本のようにカラー照明は使わず、本来の自然の色を見せることにこだわっている。

クロアチアでは3つの世界遺産を堪能。(1)ローマ時代の遺跡が残る美しい沿岸都市「スプリット」:最後のローマ皇帝、ディオクレティアヌス帝が引退後の別荘にした宮殿の廃墟(現在の旧市街)。(2)滝と緑が織りなす幻想的な景観「プリトヴィッツェ湖群国立公園」:深い森に囲まれた大小16の湖と無数の清らかな滝が点在し、それぞれの湖が滝に数珠状につながる。(3)“アドリア海の真珠”と言われる「ドゥブロヴニク旧市街」:クロアチア最南端(飛び地)にあり、15〜16世紀に海運交易都市として発展。

1979年に世界文化遺産に登録されたドゥブロヴニクは、英国の劇作家バーナード・ショウに「ドゥブロヴニクを見ずして天国を語ることなかれ」と言わしめた素敵な街で、ジブリ映画「紅の豚」と「魔女の宅急便」のモデルと言われている。紺碧のアドリア海と旧市街のオレンジ色の瓦屋根の街並みを眺めながら、街を守る白い城壁(遊歩道:高さ25m、周囲約2km)や旧市街を散策。

観光客の増加が続くドゥブロヴニクでは、施設入場料や飲食費等の値上げが続く。それでも西側諸国の人からすると、仏・伊の高級リゾート地より割安で楽しめるため、道行く車のナンバープレートは国際色豊か。一方、観光中に同地の歩みを初めて知った。1991年のユーゴスラビア崩壊に伴う紛争でドゥブロヴニク包囲が7か月間続き多大な損害を被った。修復が行われ大勢の観光客で賑わっているが、現在も一部に銃弾の痕跡などが残っている。

「7つの国境、6つの共和国、5つの民族、4つの言語、3つの宗教、2つの文字、1つの国家」と表現されていた旧ユーゴで起こった民族対立の激化による惨状を知り、改めて日本人であることに安堵感を覚えるとともに、“平和ボケ”しないよう国際情勢への関心を高めていく必要性を痛感した旅であった。

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スプリットの旧市街
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スルジ山からドゥブロヴニクの全景を一望
投稿者:事務局長・主席研究員 島田清彦|投稿日:2018年4月

絶景紀行・南部アフリカの旅!

2016年10月、乗継も含め9日間で8回も飛行機に搭乗する大移動で、念願だった南部アフリカを訪問。4か国の国境が交わるザンベジ川を小さなボートで渡ってボツワナ(最高気温39℃)に入国し、「ゾウの楽園」として有名なチョベ国立公園へ。サファリロッジの敷地では、檻に入っていない猿やイボイノシシがお出迎え。

夕刻、チョベ川のボートサファリで活発に動くゾウの群れ、仲よく泳ぐカバの親子、不動のワニ等を観察したが、逆に人間が見られているような気分に。地平線に沈む太陽が大きく、神々しい。レストランでは現地のミュージシャンが、キーボードを弾きながら暗譜で日本語の「故郷」を3番まで歌ってくれて感動。翌朝もサファリカーの助手席からゾウやキリン、シマウマなどを観察。

世界遺産「ビクトリアの滝」(幅約1.7km、最大落差約108m)をジンバブエ・ザンビア両側より見学。乾季で水量は最も少ない時期ながら、水煙が舞い、メガネやカメラが水滴だらけに。午後はヘリコプター遊覧飛行で上空から鳥になった気分で全景を俯瞰。

プレトリアでは2日前から開花した「紫の桜」と称されるジャカランダが咲き誇っていた。翌日、2日続けて運行停止だったケーブルカーでテーブルマウンテン(標高1,085mの岩山)へ登頂。アフリカンペンギンの生息するボルダーズビーチへ寄り、ケープ半島観光のハイライト「喜望峰」の展望台と岬側へ。

アフリカの料理も多彩。(1)タンパク源のモパネワーム(蛾の幼虫)を食して証明書をゲット。(2)イボイノシシとエランド(オオカモシカ)のお肉が美味。(3)ケープポイントのツーオーシャンズレストランでは、絶景を眺めながらロブスターを賞味。

「さすがアフリカ!」な出来事も多数体験。(1)飛行機の離陸前にスタッフが殺虫剤を客席に向けて散布。(2)早朝、ロッジ(2階)の廊下に出ると、眼前を散歩する体長2m以上のカバに遭遇。(3)ジンバブエへの入国は90分待ち。(4)ジンバブエのホテルの部屋で蚊の大群に遭遇し、マラリアの恐怖が一瞬頭をよぎる。虫除けスプレーで20分以上格闘し、50匹以上を退治。

6日目、女性添乗員が体調を悪くして病院へ。現地ガイドから「今から貴方がニューリーダー」と頼まれ、急遽、臨時添乗員に。歴史・文化に関する早口英語は、大半の翻訳を割愛し、ツアー客からのわがままな要望も適当に捌き、3時間の悪戦苦闘が続いた。

素晴らしい絶景と面白い出来事に遭遇した旅であった。次は何処へ赴くか。世界の不穏な動きが少し気がかりだ。

     

喜望峰の展望台・ケープポイントにて

プレトリアのジャカランダ(右)
投稿者:事務局長・主席研究員 島田清彦|投稿日:2017年6月

主席研究員 島田 清彦
日本の「報道自由度・72位」を考える

本年4月、報道の影響力を改めて感じさせる動きがあった。国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が、タックスヘイブン(租税回避地)の利用実態を暴いた「パナマ文書(*)」の一部を公開し、アイスランドの首相が辞任したほか、キャメロン英首相やロシアのプーチン大統領などが釈明に追われた。

  租税回避地へのペーパーカンパニー設立を請け負うパナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した、約40年分の内部資料。

ICIJは、更に5月10日、パナマ文書について約21万社のペーパーカンパニーに関する主要な情報(日本に住む個人・法人は約400)をデータベース化してウェブサイトに公表し、政治家や富裕層による不透明な金融取引を白日の下にさらした。

ICIJに加盟する約80か国、約400人の記者が、膨大な極秘データ(2.6テラバイト:テラはギガの1000倍)を共有し、情報漏れを防ぎながら関係者への裏付け取材に関わったらしい。国や報道機関の枠を超えた彼らの活動に敬意を表したい。

同じく4月、日本の報道の在り方に警鐘を鳴らすニュースを耳にした。国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF)が、2016年の世界各国(180か国・地域)の報道自由度ランキングを発表。1~3位はフィンランド、オランダ、ノルウェーの北欧諸国が占める。主要国では英国38位、米国41位、フランス45位、ロシア148位、イタリア77位〔参考:中国176位、北朝鮮179位〕。

日本は、2010年の11位から毎年順位を下げており、前年の61位から今回は更に72位に順位を下げた。特定秘密保護法の施行から1年余りを経て、日本のマスコミは自己検閲・自主規制の状況に陥っている様子も見受けられる。いずれ近いうちに報道面で後進国になってしまわないか懸念される。

日本の報道を見ていると、どのマスコミも報道内容や解説が似通っていて面白くない。また、経歴詐称疑惑が浮上した経営コンサルタントの解説を鵜呑みにしていた、マスコミ関係者や我々視聴者の鑑識眼もいい加減なものであったと反省が必要だ。

また、時々、ブームのようにマスコミ各社が一斉に政治資金規正法違反など「政治とカネ」の疑惑追及のニュースを取り上げることが多い。疑惑追及そのものを否定はしないが、行政の不作為や企業の不祥事、放置されたままの様々な社会問題など、もっと追求すべき大きな問題が沢山あると考える。日本のマスコミ関係各位に調査報道の充実・強化を期待したい。

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2016年7月

主席研究員 島田 清彦
スイスの絶景・大自然に感動!

2015年6月下旬、約30年ぶりにスイスを訪問した。ベルニナ特急や氷河特急(世界一遅い特急)等の絶景列車に乗車し、有名なループ橋やランドヴァッサー橋を通過。初登頂150周年のマッターホルンやヨーロッパ最高峰モンブラン等の4大名峰を鑑賞した。高山植物が咲き誇る、雄大な大自然のハイキングも最高だった。

観光以外に楽しい出来事も経験できた。(1)スイス人のDavidにルールを教えてもらいビリヤードのエイトボールに初挑戦。結果は5戦5敗であったが、ミニ英会話は楽しかった。(2)トランペットの経験を活かしてアルプホルンを20秒ほど演奏。その約10分後、拍手がわりに直径約1㎝の雹(ひょう)交じりの小雨が数分間降ってきた。(3)エギュー・ディ・ミディ展望台(3842m)では最上部の階段で少し息苦しくなり、高山病の症状を初体験。

5日目はホテルを出発して約20分の散歩。朝日が昇り、ほのかに色を染めていく神々しいマッターホルン(4478m)の姿を拝謁。他の山から孤立して立つ凛とした姿から"アルプスの女王"と呼ばれているが、その名にふさわしい崇高な佇まいに魅了された。

ゴルナーグラート展望台では、天候に恵まれ4,000m級の名峰群とゴルナー氷河の息を飲むような360度の大パノラマに感動。下山時のハイキングでリッフェル湖面に映る「逆さマッターホルン」と遭遇し、プロ級の写真撮影に成功。超ラッキーだった。

かつてシーザーやナポレオンも超えた峠を通過し、フランス領シャモニーへ。6/26はトレイルマラソン「モンブラン80km」〔累積標高差約6000m、制限時間24時間〕が開催され、早朝4時にスタートした選手達がゴールインする現場に立ち会うことができた。懸命な力走に対し、みんなと一緒に拍手と歓声を送り続けた。その晩はカフェの屋外テラスで地元の赤ワインを飲みながら、月明かりに照らされたモンブラン(4810m)を鑑賞し、優雅な気分に。

アイガー、メンヒ、ユングフラウの三山を正面に眺めながらクライネ・シャイデック迄のハイキングは高山植物の宝庫だった。登山列車で欧州最高地点の鉄道駅トップ・オブ・ヨーロッパ(3454m)へ。スフィンクス展望台ではアレッチ氷河やユングフラウ等の壮麗な絶景が眼前に広がる。青白く幻想的な氷の洞窟を歩き、アレッチ氷河の深部を体感した。下山後、ヴェンゲンでラウターブルネンのU字谷(795m)からユングフラウ(4158m)を一望できる教会のベンチに座り、時を忘れて静寂に浸った。スイスの旅は、絶景・大自然に感動の連続であった。


リッフェル湖に映る「逆さマッターホルン」

アイガー北壁を望むクライネ・シャイデック
投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2015年9月
主席研究員 島田 清彦
Mamma Mia!イタリアでの出来事

2014年6月下旬、約30年ぶりにイタリアを訪問。毎朝、添乗員さんの挨拶「ブォン・ジョルノ(巻き舌を強調)」でスタート。

ミラノでは、大聖堂の美しいファサード(建物の正面)に驚嘆。静寂の中でレオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」を鑑賞。

フィレンツェでは、汗を流し「ドゥオモ・クーポラ」(高さ106m)へ登頂し(外壁は排気ガスでやや汚れていた)、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」などを鑑賞。アルノ川に架かるポンテ・ヴェッキオの2階部分「ヴァザーリの回廊」も特別見学。

カプリ島では、僅かな白波が見える程度でありながら「青の洞窟」への入場を断念し、ソラーロ山(標高約590m)の展望台へ。入場成功の鍵は、当日の天気と船頭のやる気次第らしい。

システィーナ礼拝堂ではミケランジェロの「最後の審判」や天井画(「アダムの創造」等)と再会。鮮やかな色彩が蘇っていた。

今回はMamma(マンマ) Mia(ミーア)(≒Oh My God)!な出来事も多数体験。トレヴィの泉は、工事用足場が組まれ無残な状態。再訪の願いを込めて後ろ向きに投げたコインは、周囲を囲む柵に当たって足元に落下。この他、(1)ミケランジェロ広場が封鎖されてフィレンツェ市街の絶景を展望できず、(2)スリにボディバッグのジップを開けられヒヤリ(貴重品は盗まれずセーフ)、(3)サン・ピエトロ大聖堂では「ピエタ像」がイベント準備の為にカーテンで囲まれて優美な姿を拝見できず、(4)「真実の口」では手が抜けなくなり(?)、(5)観光バスとパトカーが接触事故、(6)帰路はトランクがフランクフルトに積み残され、我が家に届いたのは翌日の夜だった、など。

カプリ島行きの高速船で隣にいたニュージーランドの女性(クルーズ船で29日間の旅行中)に「青の洞窟」について質問したが、その存在を知らなかった。現地ガイドによると、日本人ツアーは「青の洞窟」を見ただけで足早にカプリ島を去ることが多いが、イタリア人や外国人にとって「青の洞窟」は観光対象ではなく、それ以外の観光を楽しむのが主流らしい。オーロラのように「青の洞窟」も日本人向けに過剰宣伝されている懸念がある。

日本人は、モノづくりだけでなく、観光もガラパゴス化しているようだ。ただ、日本人の観光にグローバルスタンダードを適用するには、海外のように長期休暇を取得しやすい環境づくりも不可欠だ。いつかは欧米風の旅行を夢見ながら、次なる国へ「Andiamo(アンディアモ)!(行こうよ≒Let's go!)」。 


フィレンツェの「ドゥオモ・クーポラ」から

カプリ島・ソラーロ山の展望台から
投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2014年11月
主席研究員 島田 清彦
Bonjour, Paris! パリの不思議な魅力

昨年8月下旬にパリを訪れた。ドバイ~パリ間の往復ではエアバスを初体験。エコノミー席でも、ゆったりと座れて快適だった。

フランスは、1日の間に春から冬まで体験できる。早朝は10度前後だったが、最高気温は30度近くまで上昇。フランス人は人目を気にせず、自分の体温に合わせて服を着る。夏でも革ジャンや毛皮を着た人を見かけた。冬でもTシャツ姿の人がいるらしい。

パリ観光の前に、ルーアンのノートルダム大聖堂、ロワール渓谷のシュノンソー城、シャルトル大聖堂などを訪問。モン=サン・ミッシェルでは、昔の景観を取り戻すべく、土堤に代えて橋を架け、潮流を取り戻す大規模な工事が行われていた。

ルーヴル美術館では、面白くないジョークを連発する、日本語の流暢な現地ガイドによる宗教画の説明に時間を割かれてがっかり。百人以上が取り囲むモナリザを遠巻きに眺めながら、たった約90分間の気ぜわしい名画鑑賞だった。

チュイルリー公園では、若者の集団が大声で歌いながら近寄ってきて、周りの人を巻き込み、みんなで記念撮影。メトロの乗換で悩んでいると、ギリシャへバカンスに行く途中の女性が改札まで同行してくれた。ルイ・ヴィトン本店のショーウィンドウには、躍動感あふれる金色の恐竜の骨格が通行人の目をひく。オペラ座では豪華絢爛(けんらん)な内装やマーク・シャガールの天井画に圧倒。

移動用バスが手配されておらず、エッフェル塔を模(かたど)ったブランデー4本など、重たい土産を両手に抱えながら30分歩いて夕食に。添乗員がお詫びにと、全員に飲み物一杯おごりでビール8€(ユーロ)を飲む。

パリの金曜の夜は11時を過ぎても人だらけ。夜中の1時30分頃まで人が絶えないとか。夜のセーヌ河クルーズでは、川岸で青年3人が踊りながら上半身裸になり、次いでズボンを降ろして、お尻を船の方に向け、もしかして次は・・・と思いきや、そこでストップし、歓声が飛び交っていた。さすがパリ?

パリ訪問は約30年ぶり。当時は英語が通じず疎外感を感じ、訪問8か国中で最低評価。だが、今回の旅はフレンドリーで好印象。ただ、宿泊先で見かけたテレビは全て韓国のサムスン製で、日本製は締め出されていた。また、2012年にフランスを訪れた日本人は62万人だが、訪日フランス人は僅か13万人。日仏友好にもっと力を入れて、人とモノの交流を増やさないと。 


モン=サン・ミッシェル

「ナポレオン一世の戴冠式」の前で
投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2014年1月
主席研究員 島田 清彦
遥かなるペルー雑感

3年前のチュニジア、2年前のインドに続き、昨年8月に南米のペルー共和国を訪れた。6泊7日(うち機中泊が3回)とやや強行軍であったが、移動の機内で新作映画を7本も鑑賞できた。

初日は13時間かけて関空からNYへ行き、乗継時間を利用してオプションの市内観光に参加。約20年ぶりに「自由の女神」に対面と思っていたが、バッテリーパークから遥か彼方に小指サイズのフィギュア(?)しか見えず意気消沈。9.11テロで倒壊した世界貿易センタービルの跡地では、フリーダム・タワー〔高さは米国独立の年にちなみ1,776フィート(541m)〕の建築が進んでいた。

23時にNYからペルーの首都リマへ。約8時間のフライトは熟睡。朝6時に到着後、往復約9時間のバス移動でピスコへ行き、ナスカの地上絵観光へ。空港到着後も上空は雲が多く、飛行機が飛ばずに1時間以上待たされた。プロペラのセスナ機と思いきや、小型ジェットに搭乗。機体が旋回した時は身体全体にすごい重力がかかり、カメラを持ち上げるのも一苦労。乗り物酔いで気分も悪くなり、首や肩のコリが翌日まで残った。なんと、僅か25分の地上絵上空の遊覧のために移動等で11時間以上を費やした。凄い!

3日目はペルー南部の標高約3,600mの高所にあるクスコ(かつてのインカ帝国の都)で、カミソリの刃も通さない(?)インカ時代の石組みが残る通りや、荘厳なカテドラルがそびえ立つアルマス広場周辺を観光。その夜、同約2,800mのウルバンバのホテルで宿泊したが、高山病の症状か、約1時間おきに目が覚めた。

翌朝5時30分にホテルを出発し列車で約80分、アンデス山脈の雪景色を見ながらマチュピチュ村へ。そこからベンツ製のバスで蛇のような山道を登る(約25分)と世界遺産マチュピチュ遺跡(標高約2,280m)の入口に到着。急勾配の山道を10分ほど歩くと、忽然と目の前に石造りの遺跡が姿を現した。雲海にそびえるインカの遺跡は、悠久の時を超えて何を語りかけていたのだろうか。

知人から「何十時間もかけて何故行くのか」と言われたが、偉大な文化遺産、雄大な自然遺産は、実際に訪れて体感しないと本当の良さがわからない。3年間に17か所、20歳以降に約40か所の世界遺産を訪問した。NHKの世界遺産人気ランキング上位30か所(海外25か所)のうち、海外12か所を訪れたことになる。ただ、世界遺産は約1千件が登録されており、・・・。


クスコのアルマス広場

世界遺産マチュピチュ遺跡
投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2013年1月
主席研究員 島田 清彦
悠久なる大地インドの魅力

一昨年のチュニジアに続き、昨年11月にインドへ旅してきた。シンメトリーが美しい「タージマハル」や赤砂岩の建築物「レッドフォート」、石造りの塔「クトゥブ・ミナール」、荒涼とした大地に威容を誇る「アンベール城」など7か所の世界遺産を訪問。ガンジス河で見た静寂の中の朝日は、とても感動的であった。

広い国だけあって、毎日バスで250Km前後を約5~6時間かけて翌日の目的地へ移動した。3日目のバラナシからアグラへの移動は列車の予定であったが、列車事故により急遽バス移動に変更。季節外れの濃霧も影響してアグラ到着は18時間後の翌朝4時30分であった。日本の交通機関のすごさ、有難みを改めて痛感した。

インドでは、5000年の歴史の中で育まれた宗教、文化などの多様性や華やかな衣装をまとった女性のほか、次々と驚くようなことにも遭遇した。凸凹道でのスリル満点な輪タク、化粧をした象タクシー、街中で道を堂々と横切る牛、高速道路を走る馬車、水の入った手桶が置いてあるインド式トイレ、商魂逞しい物売りの男性など。この刺激的な体験こそが、インドの魅力とも言える。

帰国後にインドのすごさを調べると、面積は329万k㎡(世界第7位)で日本の8.8倍、人口は12億人。人口増減を1950年比でみると、日本は1.5倍、中国は2.5倍だが、インドは3.2倍と更に高い。2025年には中国を抜いて人口世界一になると予想されている。

ただ、日本人の平均寿命は82歳だが、インド人は64歳と、ロシア人の68歳より低い。2010年の実質GDP成長率は8.6%と高いが、人口の2割強が栄養不足人口(1日の摂取カロリーが2200kcalに満たない人)となっており、貧富の格差が激しいのも問題だ。

2010年の米国から日本への渡航者は73万人だが、インドへの渡航者は93万人と日本より20万人も多い。政府が言う日米関係の強さに反して、米国から見た日本の位置付けは低いのではないか。

一方、日本から見てインドは、2003年以来、円借款の最大級の受取国だ。2010年10月時点でインドへの日系進出企業は約700社、在留邦人は4.5千人だが、中国への日系進出企業2.2万社、在留邦人13万人と比較すると未だ発展途上にある。中国の経済成長にやや陰りが見えてきたなか、昨年夏に「日・インド包括的経済連携協定」が発効した。日本企業のインド進出に拍車がかかることを期待したい。さて、次はどの異国を開拓しようか。


ガンジス河から見た朝日

アンベール城のガネーシャ門、
緻密なフレスコ画が素晴しい
投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2012年6月
主席研究員 島田 清彦
学而不思則罔 思而不学則殆

職業柄、様々なレポートや調査結果等を拝読することが多い。参考になるものもあるが、首を傾(かし)げたくなるような内容も散見される。中には、自分で考えることを放棄したらしく、文章の大半が書籍やWebサイトの丸写しに近い寄せ集めのものもある。特定の部分だけを読むと意味は通っているが、筆者の思いや考えが不明瞭で論旨の一貫性に欠け、違和感を覚えることが多い。

実際、Webサイトの文章をコピー&ペースト(Input?)して少しだけ加工し、あたかも自分の成果・Outputのようにしている学生(社会人も?)が増えている。今はネットでキーワード検索すれば大抵の情報は入手可能なため、自分が偉くなったと錯覚してしまいかねない状況だ。情報の収集は容易だが、自分の頭で考え抜いていないため、ちょっと突かれるとすぐにボロが出てしまう。

日本のサービス業の労働生産性が低いといわれるが、この場合の生産性は「付加価値額÷(労働者×労働時間)」で計算される。一般的に、生産性は「Output÷Input(材料、時間等)」で計算可能であり、Inputを増やさずにOutputの量だけを増やすか、Inputを減らして同量のOutputを産出すれば生産性は高まる。OutputとInputの内容を置き換えれば、様々な場面で応用できる。

この算式は品質管理が徹底されている製造業などでは有効だが、知的生産業務に同式を適用すると厄介だ。例えば、各種の調査研究では情報収集や学び(Input)が不可欠であり、一定のOutput量も求められるが、それ以上にOutputの緻密さ、品質向上、創造性などが更に重要だ。量をこなすことだけにとらわれ、品質をないがしろにする行為は、自らの存在価値を否定するようなものだ。安易な量産ではなく、品質へのこだわり・探究心を大切にしたい。

職場の2階に県内の著名人の手による「学而不思則罔 思而不学則殆」という書が掲げられている。これは「学びて思はざれば則(すなわ)ち罔(くら)し。思ひて学ばざれば則ち殆(あやう)し。」という論語であり、読書だけでは知識(Knowledge)は身につかない(本質を理解できない)、思索(Thinking)に耽(ふけ)るだけだと独善的になるということを示している。「学(先人や書籍から得る知識)」と「思(自分の頭で考えること)」とが一方に偏ることなく、バランスを大切にしながら実践【Input×Thinking】していくことが大切であるという孔子の教えを肝に銘じたい。

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2011年9月
主席研究員 島田 清彦
チュニジア紀行

昨年11月にチュニジアへ旅してきた。世界地図でチュニジアの位置を迷わずに指差すことができる人は数少ないであろう。実際、日本からチュニジアへの旅行者は2008年で約11千人と少なく、海外旅行者の旅行先トップ50(受入国統計)にも入っていない。しかしながら、日本から同国への経済協力の規模(08年)はフランスに次いで第2位となっており、一概に関係の薄い国とも言えない。

家族や周りの人から「なぜチュニジア?」と同じようなことを何度も聞かれた。過去に西欧(7か国)やアメリカ・カナダ、大連へは行ったことがあったので、自分にとっての未開拓地を事前にいくつも検討した。休暇時期と旅程が合わず、旅程が気に入って旅行会社に電話しても、ツアーへの参加者が60歳代や70歳代の夫婦やグループ参加ばかりとの返答がほとんど。今回のツアー参加者に聞くと、さすがマイナーな国だけあって、過去に旅行した国の数は30~40か国と答える人が多かった。

結局、一人参加のあるツアーで、未開拓地ということを前提にしたため、消去法的にチュニジアを選ぶことになったのだが、想像以上に良い国で、アフリカらしくないアフリカであった。

チュニジアは、北アフリカの地中海沿岸にあり、イタリア・シチリア島の南西に位置している。人口は約1千万人(98%がアラブ人)で、公用語はアラビア語だが、独立前はフランスの保護下にあったことからフランス語も広く普及している。最近は年率約5%の経済成長が続いているが、2009年の失業率は14.7%と高い。そのため、平日にも街中で若い人々を多く見かけた。

北海道二つ分ぐらいの面積に世界遺産が8つ(今回6か所訪問)もあり、ローマ帝国時代や中世のイスラム建築等を中心に多数の遺跡が点在している。地中海リゾートの街もあり、複数の文化圏を旅した気分になった。ただ、料理は日本人の口に合いにくいかも。

変な旅の思い出もいくつかある。帰国前夜にパブでビールを飲んでいたら、「Friends,・・・」と言いながら30歳前後の男性がテーブルの傍らに座り、アラビア語またはフランス語で店員にビールを注文し、少し雑談した後にお金を支払わずに立ち去った。

また、帰国当日の空き時間を利用して、世界遺産に指定されている、迷路のようなメディナ(旧市街地)を散策した際に生まれて初めて迷子になった。現地の青年に聞いて案内された方向へ行くと、更にややこしい雰囲気になり後戻り。ジャケットを着た40代男性に声をかけたが、英語は話せない。しかし、彼は、多分出勤前にもかかわらず7~8分かけてメイン通りの入口まで案内してくれ、最後に「Bon voyage !(良いご旅行を)」と声をかけてくれた。色々なことがあったが、面白い旅であった。次はどの未開拓地へ行こうか。



投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2011年1月
主席研究員 島田 清彦
三つの目 +α

物事を見る・考える時には、3つの目を持つべきだと言われる。現場の細部をきちんと見極める「虫の目」、大局(全体像)を見渡す「鳥の目」、流れの変化を読む「魚の目」である。昨今は、グローバル化が進展し、経済環境が目まぐるしく変化しており、とくに「鳥の目」と「魚の目」の重要性が増している。

色んなメディアで数字・データが氾濫しているが、その真偽を疑うことなく、鵜呑みにする人がいる。全てを懐疑的に見ろとは言わないが、何の疑いも無く、見たこと、聞いたことを鵜呑みにしているようでは、間違った意思決定、不適切な行動をしてしまうリスクがある。最低限の「鑑識眼」を磨くことが必要だ。

世の中には会議・委員会等が多数あるが、いくら目の数を増やしても、会議と呼ぶに値しないものが多い。低次元な内容で何時間も、何日も要している目に余る会議は、そこらの井戸端会議や雑談と変わらないと、子どもからも白い目で見られるだろう。

国や企業で数か月、数か年に亘って議論されたことが、単純なことで結論が変わってしまうこともある。最初から「鳥の目」「魚の目」が欠如しているのだ。「第三者の目」からすると時間の浪費以外の何者でもないが、当事者は有意義だったとご満悦だ。

最近、国や企業、団体等でリーダーシップのあり方が議論されることが多い。言うことがコロコロ変わる、風見鶏のように八方美人の振る舞いをする、決断を先延ばしするなど、核となるものを持たない人は、目が泳ぎ、心もフラフラしがちだ。的確な針路を示せず、「虫の目」で瑣末なことばかりに口を出し、メンバーのやる気を阻害していることもある。時として、問題をより複雑にしていることにさえ気づいていないこともある。

自分に同調する意見には耳を傾けるが、自分の意に反する声には拒絶反応を示し、その人を目の敵にする人がいる。「裸の王様」とまでは言わないが、リーダーの言動に対して異論の出てこない組織は、誤った方向に進んでいる可能性が高い。目の上のタンコブを敢えて身近に置く度量がリーダーにも必要だ。

我々は、時間的・精神的に余裕がない場合、「虫の目」だけが働いて眼前の細かい事象ばかりに目が行き、周囲のことや中長期的なことに考えが及ばないことが多い。また、他人の書いた文章を読んで文句を言う人でも、自分の書いた文章には寛大で、時に無頓着でもある。自分の都合のいいように目が変化していることに本人は気づかない。「目○鼻○を笑う」に陥らないよう、自分自身に対しても「批判的な目」を持ちたいものだ。(猿石 猿男)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2010年5月
主席研究員 島田 清彦
「守」「破」「離」の実践を!

数年前、ある会社を訪問した際、社長さんから「A君が病気で長期休暇に入り、経理の仕事をどうしたら良いか分からなくて困っている」と聞いた。当時、PCでの会計処理がほぼ普及していた時代に、同社では勘定科目のゴム印を使って手書きで経理処理をしていた。

Aさんは何の疑問も持たなかったのだろうか。またはPCが苦手だから放置していたのか? それともIT化、効率化をすると、自分の仕事がなくなると思ったのか?

前任者から引き継いだ仕事を、同じやり方で何年も続けている人がいる。長期間、同じ業務を同じ担当者が行うことは好ましくない。マンネリ化し、改善意欲が落ちてくる。同じ方法をそのまま続けることは楽だが、個人の成長もなく、会社としての進歩・発展もない。

前任者が行っていたことを改善するには、少しの勇気と相当な知恵が必要で、苦労が伴う。知恵の発揮には、頭の「5S」【整理・整頓・清掃・清潔・躾(習慣)】が有効だ。頭の中だけで一人悶々と悩んでいても整理ができない。紙に問題点を書き出して文章にする。仕事の必要性・目的を再確認し、不必要な場合は廃止・削減する。仕事のやり方、段取りを考え、効率性を高める。ゼロベース思考で考えることが不可欠だが、なかなか慣れないと実践するのは難しい。

入社した頃、先輩から「仕事は段取りや」と何回も言われた。その先輩は、どんなに忙しくてもさらりと仕事をこなし、忙しい素振りを見せなかった。よく「仕事は忙しい人に頼め」と言うが、それは真実だろうか? 忙しそうに見える人間=仕事ができる人間とは限らない。

段取りの良い人は、何事も前倒しで着手し、淡々と冷静かつ着実に仕事をこなしている。決して忙しいとぼやかない。日頃から物事を多面的、客観的に考えることに努めている人は、頭の中である程度のシミュレーションができるため、仕事が段取りよく進む。

一方、段取りの悪い人ほど、結構忙しく(バタバタ)しているものである。段取りの悪さ、詰めの甘さから余計な作業が増え、相手とのやりとりや電話も増える。集中力に欠け、仕事にメリハリがなく、細かな間違いやミスも多く、その事後対応に追われがちだ。つい「忙しい」とぼやくことが増えてしまう。走りながら考えるというよりは、考える前に走り出してしまう

過去から受け継がれた型・やり方を守り(守:一旦は自分のものとし)、時代の変化に合わなくなったモノ・コトを捨て去り(破:前任者の教えを破り)、自分なりの発展を試みて新しい独自の工夫を加える。そして、従来までの型・やり方を超えていく(離:段取りを磨き、更なる高みを極める)ことが大切だ。  (猿石 猿男)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2009年9月
主席研究員 島田 清彦
『Yes, we can』と言える国づくりを

猿子「2008年は大変な1年だったわね。こんなに激変するなんて想像もしなかったわ」

猿男「大企業が相次いでリストラを発表・実施していし、10月には日経平均株価が約26年ぶりに一時7千円を割り込んだし、ガソリン価格も大きく変動した」

猿子「変動と言えば、毎年のように首相が交代するから、子供達も首相の名前を覚えるのが大変だって、『ささやき女将』しているわ」

猿男「それに首相が「踏襲・頻繁」を読み違えるくらいだから、子供にちゃんと勉強しろって言えないな。しかも、官房長官が首相の漢字の読み違えについて『人間のやることですから、うっかり読み違えることは起きる』と擁護したんだ」

猿子「子供から『人間のやることですから、・・・』って言われたら、どう返答すれば良いのかしら。だけど、漢字が読めなくて「羞恥心」と名づけられた3人組の『おバカキャラ』や『ゆるキャラ』が大当たりしたでしょ、日本の将来も希望が持てるかも」

猿男「呆れて『何も言えねー』。呑気な考え方はダメだ。僕は『あなたとは違うんです』。漢字の読み違えはまだ許されるが、経済動向や国民感情等を読み違えた、場当たり的な政策は困る。『巧遅よりも拙速を尊ぶ』とも言うが、『100年に1度の経済状況』と言いながら、政治の無為無策は最悪だ」

猿子「今後の日本はどうなっていくの?」

猿男「日本の財政は、国と地方を合わせた長期債務がGDPの1.5倍にものぼり、崩壊状態に近い。『居酒屋タクシー』に乗っている場合ではない。2兆円の定額給付金や緊急性の乏しい道路建設などのムダな公共事業を行うよりも、雇用環境の急激な悪化で被害を受けている人々への支援や、小中学校等の耐震工事の推進、環境や省エネ技術への積極投資など、優先順位の高いことは一杯あるはずだ」

猿子「ところで、国に『Change』を訴えるのは良いけれど、貴方のメタボ健診の結果はどうだったの。もっとしっかり働いてもらわないと困るから」

猿男「『言うよね?』、僕は大丈夫だ。1年前倒しで身体を絞ったからね。それより国や自治体等にメタボ検診を受けて、スリムになってもらいたいよ。外国から『後期先進国』『鈍感力(は一番)』と揶揄されないように。我々が『Yes,we can』と自信を持って言えるような国づくりを期待したい」

猿子「何か明るい希望は持てないの?」

猿男「『どげんかせんといかん』。くいだおれ○○君に頑張ってもらうしかないかな~」 (猿石 猿男)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2009年1月
主席研究員 島田 清彦
実感できない「経済波及効果」

イベントや各種施策の経済波及効果が新聞等で報道されるのをよく見かけるが、実際の景気に与える影響は少なく、期待した程の経済効果を実感できないことが多い。

経済波及効果は意外とアバウトな数字である。ごく閉鎖的な地域での一つの事象だけで考えると、何らかの付加価値を生み出しているが、日本全体で見た場合、そのままGDP等の経済規模に上乗せされる訳ではない。

特定イベント等に関連したお金の流れを集計した予測であり、むしろGDPの内訳を示したものに過ぎないとも言える。但し、オリンピックや万博などを国内に誘致して、外来の消費や国内の眠っていた消費・投資需要を喚起した場合は、新たな付加価値を創出していると言えるが。

例えば、あるイベントの開催が計画されていて、その経済波及効果が約30億円だと発表されたとする。あくまでも仮の数字だが、イベント参加者の4人グループが昼食に1000円の焼肉定食を食べた場合、その定食代4000円のほか、焼肉や野菜等の原材料購入費1200円、牛を育てるための肥料代400円までもが経済効果に含まれ、総額5600円が計上される。更に、そのレストランで働く従業員の給与(雇用者所得)までもが「家計消費支出」の増加をもたらすとして、数字は更に膨れていく。

イベントに参加しなくても、4人は別の所で昼食を食べるはずである。宿泊費等がかさんだため、液晶TV等の購入を諦める(消費の代替)などのマイナス面も想定される。イベントに合わせて訪問時期を遅らせる、または早めるという、需要の先送り・先食いの影響もある。しかしながら、経済波及効果の推計(算出)時において大抵の場合、これらのことが考慮されていない。

経済波及効果は、神奈川県をはじめ多数の自治体で算出ソフトが公開されており、PCさえあれば容易に算出できる。経済波及効果は、一定の前提・仮定を基に試算したものであり、来場者数や消費金額等の投入数値の設定には多くの不確実性が伴う。実際、それらの設定には緻密さ、論理性、中立的視点等が不可欠だが、担当者の裁量で決まる部分も多く、条件等が変われば結果も当然変わる。数字が検証されることは非常に困難であり、「言ったもん勝ち」という面があるのも否定できない。

経済波及効果の数字は信憑性が低いとは言わないが、特定イベントの経済波及効果が○億円あるから実施するという短絡的な意思決定は好ましくない。地域特性や産業構造の変化等を踏まえ、どの分野への経済波及効果を高めるべきか、それには何が適しているかという比較検討の判断材料の一つとして利用していくべきであろう。

経済波及効果の数字を読む・利用する側の人間にも、それなりの見識や冷めた見方が求められる。数字を鵜呑みにせず、こうした見方もあるという参考程度に受け止めておく方が良いと思われる。    (猿石 猿男)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2008年5月
主席研究員 島田 清彦
「上善如水」水から学ぶ組織のあり方 最近の不祥事から組織のあり方を再考する

雪印乳業の集団中毒事件、不二家の期限切れ原料の使用問題、ミートホープの食肉偽装事件、私立高校の大学合格実績水増し問題、社会保険庁の消えた年金問題、元農相の事務所費問題・絆創膏問題など、様々な組織において信じられないような問題・不祥事が多発している。

流れが止まった水溜りは、必ず腐る。談合事件に見られるように競争原理が無い業界は必ず腐る。競争原理が働きにくい行政の業務は、民間参入を促すか、徹底した「見える化」(情報公開)で抑止効果を高めるしかない。

水の流れが淀むと、民間組織も腐ってくる。人の入れ替わりが少なく、長期に亘りメンバーが固定されていると、緊張感が弱まり馴れ合いが生じてくる。間違いや改善点を互いに指摘したり、議論したりすることが極端に減る。意見を求める時は、自分と同タイプの人に相談し、ロジカルシンキングがないまま納得してしまう。

組織のレベルや生産性の低下に気づいていないことが多く、気づいたとしても、そのままの状態が続くほうが居心地がよいため、敢えて指摘しようとはしない。かくして、組織の弱体化が進み、自浄能力がなくなる。

『水は方円の器に随(したが)う』と言うが、企業の社員も然りである。本来のマネジメントが苦手な管理者は、細かいルールを決め、それを遵守させる(水の自然な流れを変える)ことが自分の仕事だと考えている。このため指示待ち族ばかりが増え、創造的な活動が少なくなる。また、瑣(さ)末(まつ)なことに目が行き過ぎるため、大局的な観点から物事を見ることができず、大きな漏れが発生しやすい。

『水は方円の器に随(したが)う』と言うが、企業の社員も然りである。本来のマネジメントが苦手な管理者は、細かいルールを決め、それを遵守させる(水の自然な流れを変える)ことが自分の仕事だと考えている。このため指示待ち族ばかりが増え、創造的な活動が少なくなる。また、瑣(さ)末(まつ)なことに目が行き過ぎるため、大局的な観点から物事を見ることができず、大きな漏れが発生しやすい。

このような組織では、「ハイン・リッヒの法則」のように1件の大事故の影に29件の小事故があり、更にその背景には300回のヒヤリとするような場面が隠れている。

『水清ければ魚棲(す)まず』と言うが、『水濁れば則ち尾を掉(ふる)うの魚無し』という言葉もある。『清濁併せ呑む』ことも時には必要だが、水が濁り過ぎると泳ぎ回る魚がいないように、国・地方の政治や企業の経営が正しくないと、国民は自由で楽しい生活を送ることができず、企業の社員に生き生きとした活動を期待できなくなる。

『上善如水(じょうぜんはみずのごとし)』を忘れず、時折、世の中の喧騒から離れて『山(さん)紫(し)水(すい)明(めい)』の地を訪れ、心身を清めて『明(めい)鏡(きょう)止(し)水(すい)』の心境になり、名将黒田如(じょ)水(すい)のように万物を潤す水の生き方を学びたいものだ。   (猿石 猿男)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2007年9月
主席研究員 島田 清彦
「三人寄れば文殊の知恵」って本当?

無駄な道路を造らない、借金を減らすなどの目的で始まった高速道路改革も、当初に予定していた高速道路がほぼ全て建設される方向になり、改革が形骸化している。このほか郵政民営化や年金改革、米国産牛肉輸入再開なども、国会や各種会議等で審議されながらも、不適切な意思決定や問題の先送りがなされている。

「三人寄れば文殊の知恵」は、【平凡な人でも、三人集まればすぐれた考えが浮かぶ】という諺であるが、問題解決の知恵を出し合う時には、あまり上手くいかないことが多い。複数人で話し合うのはよいが、業務やスキル、思考パターン、価値観などが似通った人間やロジカルシンキングが苦手な人間ばかりが集まっても、的確な議論は困難であり、合理的な結論に至らない場合が多い。むしろ、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」とまでは言わないが、議論の内容に関係なく「合議で決定した」という、間違った安心感が生まれることもありうる。

また、一人ひとりは慎重であっても、集団討議では議論が大胆な方向へとエスカレートして行き、全体の平均的な意見よりも過激な(リスクの高い)方向に意見が極端化しやすい。この現象を「リスキーシフト」と言う。組織の体質によってはリスキーな方向へシフトせず、逆の方向、すなわち問題の先送り、慎重な方向へのシフトもあり得る。当事者には、そのリスクの認識がない。

組織行動でも同じようなことが言える。「一本の矢はすぐ折れてしまうが、三本まとめると折れにくくなる」、これは毛利元就が三人の息子たちに諭したとされる有名な言葉である。しかし、マネジメントが下手な組織では、同じ立場の仲間がいる時には、「誰かがやるだろう」との責任分散が生まれ、社会的な手抜き現象が見られる。

フランスの心理学者リンゲルマンは、綱引きを利用した実験から次のこと【リンゲルマン効果】を発見した。1人だけの力を100とすると、2人1組で綱引きした時には、各人は1人の時の93%の力しか出さなかった。3人になると85%、8人では49%の力しか出していなかった。つまり、人数が多くなるほど、手抜きが多くなったのである。

我々は、偏った思考・経験などを持つ人間ばかりが集まって議論したり、行動したりする場合のリスクを常に意識しておかなければならない。行政だけではなく、民間企業においても同じである。数人ではなく、20人、30人も集まる会議ではなおさらのことである。

「三人寄れば・・・」は、悪いことだけではない。先日のトリノ五輪開会式のフィナーレでは、イタリアの大物オペラ歌手、ルチアーノ・パバロッティが現れ、オペラ・トゥーランドットから「だれも寝てはならぬ」を情感豊かに歌い上げると、スタジアムは大歓声に包まれた。彼を含め「世界三大テノール」の3人が集まったコンサートは、「夢の競演」と絶賛される。 (島田 清彦)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2006年3月
主席研究員 島田 清彦
拝啓 奈良観光商店殿 【観光振興への小売業経営診断の応用】

貴店の経営診断についてポイントをご報告します。商法(国土交通省「観光消費による経済波及効果推計」)及び会計原則((社)日本観光協会「全国観光統計基準」)等に基づく決算書(客観的な分析データ)がないため確定的なことは申し上げられませんが、最近十数年間、売上(観光消費額)と利益(経済波及効果)が減少基調にある模様です。

経営革新の着手に際し、管理会計に基づく経営判断を可能にするため、業績の現状分析【観光客数・消費額、経済波及効果等の数値化・評価】をお勧めします。

過去の販売促進策との対比による「成長戦略」よりも、潜在顧客を含めた消費者の声に真摯に耳を傾けながら、同業種の近隣競合先(O型小売店やK商店街等)や異業種・異業態との「競争戦略」を策定し、差別化を図ることが重要です。なお、差別化を行うのは企業の側ですが、差別化されているかどうかの最終的な判断は消費者が行います。この点を誤解されている企業が意外と多いので注意して下さい。

経営革新を成功させるには、利益(付加価値)をあげていくことが必要です。利益を生み出すには、「売上増大」と「コスト削減」の2つの方法しかありません。 売上増大には、定量的目標として来店客数のみを掲げるのではなく、「売上=来店(観光)客数×客単価(数量×単価)」の展開が必要です。来店客数の増加では、来街者の「入店率」を高めるために新規客の来店誘致(コストが割高)のみならず、既存顧客の再来店を促すことが効果的です。但し、毎度同じ品揃えでは、いずれ飽きられてしまいます。ターゲット顧客に応じたPR手段の多様化、販促ツールの企画を検討して下さい。

なお、特売や季節催事のイベントも一定の効果は見込めますが、イベント開催前後の来店客数が落ち込んだり、来店客数の増加の割には平均客単価が低下したりするなど、利益アップにつながりにくいケースもあります。

一方、客単価を高める活動では、店内のインフラ整備として、①回遊性の改善(動線長の伸張)、②各売場のレイアウト・什器・陳列方法の改善(立寄り率の向上)、③POP広告やフェイシング(棚割)の工夫(視認率の向上)、④値頃感の設定、POP広告とCMやチラシとの連動(購買率の向上)等に取り組みます。

その上で、⑤品揃えの充実、関連販売等まとめ買いの誘引(購買数量の増加)、⑥比較購買の促進、付加価値・高級感のアピール、生活提案等(商品単価の向上)を行います。これら一連の効果測定は、足し算ではなく、掛け算の公式で計算しますので注意して下さい。

コスト削減については、売上原価率の低減を図るために、販売商品の他社(県外)からの仕入れ割合を引き下げ、自社で製造する(県内から調達する)割合を高めることが効果的です【自給率・地域内調達率の向上】。

「売上増大」は、来店客という外部要因に依存しますが、「コスト削減(自給率の向上)」は企業組織・風土等(県内の産業構造、流通等)の内部要因に依存するという特徴があります。数年後に商圏人口の減少が始まります。

来店客数年間4万人への回復を目指すよりも、現実的な問題として来店客の減少を食い止め、生産性の向上、粗付加価値の増大を図ることを考え、地域社会へ貢献できる企業になることを目指すべきです。売上の回復・増大よりも、先ずコスト削減を優先し、「儲かる体質づくり」を行うことが肝要と考えます。また、貴店のみ単独での改善ではなく、商店街全体で一丸となった取り組みが望まれます。

貴店の経営革新のご成功を心よりお祈りしています。 敬具 (猿石 猿男)

投稿者:主席研究員 島田清彦|投稿日:2004年11月